のん「人は笑えることがあれば、明日が見える」 会場は拍手喝采「世界の片隅」から「隅々」へ
「第71回毎日映画コンクール」の表彰式が2017年2月15日、川崎市のミューザ川崎シンフォニーホールで行われた。
映画「シン・ゴジラ」(庵野秀明総監督、樋口真嗣監督)が日本映画大賞を受賞し、「この世界の片隅に」(片渕須直監督)が日本映画優秀賞に選ばれた。「この世界の片隅に」の主人公、「すず」の声優を務めた女優・のんさん(23)が、黄色にオレンジの花柄をあしらったワンピースで登壇し、受賞の喜びを語った。
「とても素晴らしい作品だと公開される前から確信」
「この世界の片隅に」は日本映画優秀賞に加え、スタッフ部門の音楽賞(受賞者は音楽家・コトリンゴさん)、アニメーション部門の大藤信郎賞に輝いた。
日本アニメの先駆者の大藤信郎を称える大藤信郎賞に選ばれた片渕監督(56)は、「今回の題材は、第2次世界大戦中の普通の家庭で、そこにいる主婦のちっぽけな姿を描くっていう、アニメーションの技術を活かすのにぴったりだった」と振り返る。「沢山のお客様が映画館に詰めかけてくださってありがとうございます」
のんさんは素直に喜びを表現した。
「この作品は、監督始め、スタッフ、キャスト、そして見てくださった方みんなで広めていった感覚があって、すごくうれしい。この作品は、とても素晴らしい作品だと公開される前から確信していたが、こんなに沢山の方に見ていただいて賞もいただけることが夢のようで」
ゆっくりと、埋もれた言葉を探し出すかのように。のんさんは予想もしなかった反響の大きさに先日、片渕監督に「びっくりですね」と声をかけたら、「監督は無限に夢を見るので」と返ってきたことを、笑いながら明かした。
「本当に頼もしくて、格好良くて、素直な監督だなと思って(笑)」
世界23カ国での上映が決まっている
司会の生島ヒロシさんは映画の背景について、片渕監督とのんさんに質問をぶつけた。片渕監督はのんさんを起用した理由を聞かれると、「のんちゃん以外、考えられない。映画作っている間から、のんちゃんの声が頭の中にあった気がする」と話した。
のんさんが演じたのは、太平洋戦争末期の広島・呉で混乱の時代を生き抜いた主婦「すず」だ。物語の中盤、米軍の不発弾による不慮の事故で片手を失ってしまう。
生島さんが「手を失っても一生懸命に生きる『すず』さんの姿に、我々も涙してしまった。どんなことがあっても明るく暮らせる社会っていいなあと思う」と感想を述べると、
「この作品を受けて、『人は笑えることがあれば、明日が見えるんだな』『どんなことがあっても、毎日が巡ってくる』という力強いメッセージを感じた」
とのんさん。
「普通の日常の中に、たくさん楽しいこととか笑えることが転がっているのがベースにあると思うので、そういうメッセージはどこにいる人でも、誰にでも響くものじゃないかと思う」
映画は現在、世界23カ国で上映されることが決定済み。のんさんと片渕監督は3月、メキシコを訪問する予定だ。
生島さんが「『この世界の片隅に』が『世界の隅々』にまで広がっていく気がするけど、どうか」と述べると、会場内は拍手喝采に包まれた。
「世界の片隅から『世界ってどんなものか』とこわごわ眺めている『すず』さんが主人公だけど、考えてみれば、世界に真ん中などなくて、小さな片隅がいっぱい集まってできているのが世界じゃないか。色んな国の方にとっても、この作品で描かれているのは切実なことだと思うし、自分のことのように感じてくれると期待している」(片渕監督)。