情報技術ツールをテコに行政のあり方を示した先端事例の数々
■「未来政府 プラットフォーム民主主義」(ギャビン・ニューサム、リサ・ディッキー著、稲継裕昭監訳、町田敦夫訳、東洋経済新報社)
評者が公務員になった80年代後半は、まだ、3.5インチの「フロッピー・ディスク」が使える、一抱えもあるポータブル・ワープロが導入されたころだ。8インチ、5インチの「フロッピー・ディスク」が使用される大型のブラウン管ワープロや綺麗な手書きもはばをきかせていた。携帯電話もショルダー式の大型のものを一部の部署で使用する状況であった。その後、インターネットも当たり前のものとなり、頻繁なメール、画像データのやりとりも日常のこととなった。しかし、仕事のやり方は変わっている感じは正直あまりしない。
「未来政府 プラットフォーム民主主義」(ギャビン・ニューサム、リサ・ディッキー著、稲継裕昭監訳、町田敦夫訳、東洋経済新報社)
著者は企業家でカリフォルニア副知事
このたび、劇的な情報通信技術の進展を、政府の仕事の中に、真に取り入れることによる、21世紀の新しい政府のあり方を示した、現在カリフォルニア州副知事(前サンフランシスコ市長、民主党所属)のギャビン・ニューサムが著した快作(CITIZENVILLE~How to take the townsuquare digital and reinvent government(2013))の翻訳が出版された。邦題は、「未来政府~プラットフォーム民主主義」である。ニューサムは、サンフランシスコで、企業家として活躍、ワインショップを成功させ、2003年、36歳で、サンフランシスコ市長となった。市長在職中、同性愛のカップルに結婚証明書を発行しはじめたこと、効果的なホームレス対策で市内のホームレスを激減させたことでよく知られる。
本書の帯には、「企業家の副知事が教える先端事例の数々 地域はここまで変わる!」、そして表紙の裏書には、「スマホ、アプリ、ソーシャルメディア、ビッグデータ、ゲーミフィケーション・・ 新しいツールとアイディアで本当の自治を実践 最強の『行革』のバイブル」と紹介される。シリコンバレーの著名企業家に行ったインタビューの内容、カリフォルニア以外の自治体で行われている先進的な取組み、市民が最新ツールを活用してコミュニティの課題を解決した事例などもふんだんに盛り込んでいるのが特徴だ。
市民参加のありようを具体的に提示
原書の中にある「reinvent(全く新しく作り直す)」という言葉からは、1995年に邦訳がでた、「行政革命」(デビッド・オズボーン/デッド・ゲーブラー著 日本能率協会マネジメントセンター(原著「REINVENTING GOVERNMENT」(1992)))が想起される。この本は、当時全国的な「から出張」問題に端を発した、強い地方公務員批判の中で、こころある自治体職員の行革のバイブルとなった。三重県の行政改革を代表として、民間手法の導入などで、広汎で決定的な影響力を及ぼした。自治体の現場感覚・意識を踏まえつつ優れた業績をあげている、日本の代表的な行政学者の1人である、監訳者の稲継裕昭・早稲田大学教授は、本書「未来政府」が上記の「行政革命」に匹敵する、あるいはそれを超える本になりうるとして、翻訳の出版に努力してきたという。
日本政府も、2013年10月から2014年6月まで、牛窪恵氏や古市憲寿氏などをメンバーとして、「国・行政のあり方に関する懇談会」(内閣官房行政改革推進本部事務局)を開催し、「参加なくして未来なしー日本が生まれ変わるための希望の17条―」を公表している。そこで重視された視点には、「全員がプレーヤーの時代」、「公共を『他人ごと』から「自分ごと」へ」といった『未来政府』の発想が通奏低音のように流れていたが、残念ながら具体的なイメージまでは提示できなかった。この『未来政府』は、市民参加のありようを具体的に示している。この希望に満ちた、豊富な具体例を胸に、我々も前進したいものだ。
経済官庁 AK