ピカソやマティスを「タイムライン」で見る 「1年1作家1作品」...ポンピドゥー展で新趣向
東京では毎月のようにビッグな大型展覧会が開かれている。こんどの展覧会は何を「売り」にするか。他展との違いをどう出すか――企画担当者は常に頭を悩ます。
単に目玉作品をPRして多くの観客を集めればいいというのではない。美術館で開催する以上、展覧会の「質」も問われる。だから見せ方にも知恵を絞る。
「世界初」「日本初」などを強調
今年の大型展を振り返ると――。年頭の「ボッティチェリ展」(東京都美術館)は「日本初の大回顧展」が売りだった。「春」や「ヴィーナスの誕生」で有名なボッティチェリだが、意外なことに日本で「大回顧展」としてまとまって見られる機会がなかった。
同時期の「レオナルド・ダ・ヴィンチ展」(江戸東京博物館)は「円熟期の傑作 『糸巻きの聖母』日本初公開」が売りだった。そもそもダ・ヴィンチの作品は、世界的にも貴重で、日本で直接見られる機会はほとんどない。「モナリザ」をほうふつさせる作品ということもあって注目を集めた。
6月12日まで開催のバロック美術の鬼才「カラヴァッジョ展」(国立西洋美術館)は「『法悦のマグダラのマリア』世界初公開」を前面に押し出した。加えて彼の傑作11点が一堂に集結するというのは、「日本では過去最多、世界でも異例」ということも強調された。
5月24日に閉幕した「若冲展」(東京都美術館)は「生誕300年記念」がうたい文句。代表作が集結した「東京初の大回顧展」ということで、早朝から長い列ができた。最大で約5時間前後も待つという異常事態。近年の若冲人気の凄さを見せつけた。
展示デザインを気鋭の建築家に依頼
6月11日開幕の「ポンピドゥー・センター傑作展」は、今年前半のこれらの大型展とはやや装いが異なる。フランスを代表する近現代美術の殿堂、ポンピドゥー・センターの傑作を集めたものだが、作品チョイスの仕方が変わっている。
1906年から77年までの「タイムライン」(時の流れ)を「1年1作家1作品」によって振り返るというものだ。たとえばシャガールは17年の「ワイングラスを掲げる二人の肖像」、ピカソは35年の「ミューズ」、マティスは48年の「大きな赤い室内」、ジャコメッティは56年の「存在の深淵を求めて」という具合だ。写真作品やモダンデザインが選ばれている年もあり、20世紀のアートの幅の広さを体感できる展観だ。
なぜか45年だけは、作品がなくて空白。これは原爆が投下され、20世紀最大のできごと、第二次世界大戦が終わった年であることを象徴しているのだろうか。
「ポンピドゥー」の類似例として、最近では、15年~16年初頭にかけて国内3会場を巡回した「大英博物館展」がある。「100のモノが語る世界の歴史」というサブタイトル。大英博物館が所蔵する世界各地の文化遺産約700万点のコレクションの中から100点を選び、200万年前から現代にいたる人類の歴史を再考したものだ。「目玉作品」に頼る展覧会とは味わいの異なる組み立てになっていた。
「ボッティチェリ展」は約30万人、「若冲」は約44万人。「カラヴァジョ」も5月25日に30万人を突破・・・など、展覧会はどうしても入場者数の多寡が話題になりがち。企画担当者としては集客数だけではなく、知恵の絞り具合もアピールしたいところだ。
「ポンピドゥー展」ではパリを拠点に活躍する気鋭の建築家、田根剛氏に展示デザインを依頼した。これも異例の試みだ。建築家がどのような展示空間を作り上げるのか。もう一つの見どころとなっている。