「世界牛乳の日」に愛知の酪農家が訴える「私たちは牛と共に生きています」
酪農指導団体の中央酪農会議(東京都千代田区)は2016年6月1日、東京都内で記者向け説明会「いま、日本の酪農を考える」を開催した。
説明会が行われた6月1日は「世界牛乳の日」。国連食糧農業機関(FAO)が牛乳への関心を高め、酪農・乳業の仕事を多くの人に知ってもらうべく定めたという。説明会場では日本酪農の現状と生乳の安定供給への取り組みが紹介された。
逆風に挑む日本の酪農家たち
冒頭で中央酪農会議の迫田潔専務理事が開会のあいさつを行い、続いて内橋政敏事務局長が日本酪農を巡る情勢について説明した。
世界の生乳需給を見ると、欧州連合(EU)やアメリカでは乳価が下落または安価で推移しているものの、輸入国である新興国の人口増加や経済発展で需要は増加すると想定され、一方、輸出国では気候変動で生産減少の懸念のあることが示された。
国内に目を向けると、15年は12年以来3年ぶりに生乳生産量が前年を上回った。12年が東日本大震災の翌年であることを踏まえると、実質10年ぶりのプラスといえる。副産物である子牛の価格も上昇している。
しかし配合飼料価格は高水準を保っているなど、酪農経営をめぐる情勢は決して好ましくはない。そこで経営の安定を図るため、輸入飼料への依存を軽減して国産飼料に切り替える取り組みや、ロボット搾乳を取り入れる動きが見られる。こうした努力もあって、経産牛1頭当たりの搾乳量は世界でもトップクラスの水準を実現している。
次に、酪農政策に詳しい東京大学大学院経済学研究科の矢坂雅充准教授が「日本のミルクサプライチェーンにおける指定団体制度の役割」を解説した。現在全国には指定生乳生産者団体(指定団体)が10か所ある。生乳は日持ちせず迅速な処理が必要なことから、1966年に国がこの制度を作った。海外にも似たような酪農生産者組織があり、程度の差こそあれ政府がかかわりをもっている。そして全国の10指定団体では販売競争が行われていて、独占体では決してない。一方で、指定団体以外の生乳販売組織と乳業メーカーが直接取引するケースもある。
2015年10月に環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)が大枠合意し、政府内では指定団体の役割分担・組織再編に向けた議論も起きている。現状への危機意識は酪農関係者の誰もが共通して認識しているものの、その道筋はまだ見えていない。
生産者を代表してスピーチを行ったのは、清水牧場(愛知県刈谷市)の清水ほづみさんだ。酪農家の減少が叫ばれて久しく、愛知県内ではおよそ300軒が酪農を営んでいるが、1年間でだいたい20軒ペースで減少、刈谷市内では清水牧場だけになってしまったという。
清水さんは酪農の苦労と指定団体の必要性について次のように強調する。
「牛はボタンを押せば牛乳が出るロボットではありません。牛の健康を守るのが私たちの仕事です。そして牛たちから生乳を毎日しぼっています。365日、春夏秋冬、季節によって生乳の出荷量になるべくばらつきが出ないよう、環境を整備しなくてはいけません」
「酪農家は、お母さん牛が快適にすごせるよう、そして品質のよい生乳を出してくれるよう、牛と共に生きています」
「指定団体は酪農家が出来ないこと――保存がきかない生乳を集め、きちっと売り切ってくれます。私たちが毎日牛に向き合う時間をくれ、しぼれる環境を作ってくれます。その時間を使って(清水牧場が運営する)酪農教育ファームで皆さんに生産現場を知ってもらう、命の大切さを訴えることができます。私は指定団体に守られていると思っています」
16年6月5日、東京・六本木に1日限りの「六本木牧場」が出現する。今年で3回目となるこのイベントでは、全国の牧場から集めた「ご当地アイスクリーム」や、テレビで話題となった「焼きおにぎりミルクリゾット」が食べられる。「模擬搾乳体験」「手作りバター教室」といったコーナーもある。話題の芸人「メイプル超合金」がゲスト出演する予定だ。開催時間は11時から17時までで、入場は無料。詳細は特設サイトまで。