『ほんとうの法華経』が東大生協新書2位に 著者は40歳からサンスクリットを猛勉

   市井の仏教学者・植木雅俊さん(64)が東工大名誉教授で社会学者の橋爪大三郎さん(67)と対談した『ほんとうの法華経』(ちくま新書、2015年10月刊)が、2015年11月4日付の東京大学生協新書書籍売上げ部門で2位にノミネートされている。

ほんとうの法華経
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九大理学部出身、会社員生活をしながら一念発起

   植木さんは中年になってから本格的に仏教研究に取り組み、このところいくつもの出版関係の賞を受賞した人として知られている。

   九州大学の理学部出身。もともと仏教には関心があり、会社員生活をしながら一念発起、40歳からインド・アーリア語族の古典語サンスクリット語の勉強を始めた。文化勲章受章者で、日本のインド哲学研究の最高権威、中村元・東大名誉教授が創設した「東方学院」に10年近くコツコツ通う。毎週3時間、中村さんから東洋思想についてじかに教えを受けた。

   あるとき中村さんに「もっと早く先生のところで勉強していればよかった」とこぼしたことがあるそうだ。恩師からは、こんな答えが返ってきた。「人生において遅いとか、早いとかいうことはございません。思いついたとき、気がついたとき、そのときが常にスタートですよ」。この言葉に支えられて、勉強に励むことができたという。

お茶の水女子大で男性初の人文科学博士号取得、数々の出版関連受賞

   2002年にお茶の水女子大で男性初の人文科学博士号を取得。2008年に出版した『梵漢和対照・現代語訳 法華経』(岩波書店)で毎日出版文化賞を受賞。中村さんが『佛教語大辞典』で受賞したのと同じ賞で、インド仏教研究の「碩学がいる」と出版界でその名が知られるようになった。

   2013年には『梵漢和対照・現代語訳 維摩経』(岩波書店)で「アカデミズムの外で達成された学問的業績」に対して送られるパピルス賞を受賞した。選考委員長の樋口陽一・東大名誉教授(日本学士院会員)は、「妥協を許さない対照訳である」「膨大な注釈は、仏教学や、インド思想史、東洋学、比較文化論等々にわたる非常に膨大な射程を持っている」「授賞理由を150%、200%も満たす内容」と評した。

   今年3月には『サンスクリット原典現代語訳 法華経』上・下(岩波書店)を出版。今回の『ほんとうの法華経』は、植木さんの画期的な翻訳の秘密に橋爪さんが迫り、ブッダ本来の教えを解き明かす内容だ。

日本の法華経研究に新局面もたらす

   「法華経」は仏教の根本経典とされるが、これまで鳩摩羅什による漢訳を日本語に重訳したものが読まれてきた。「植木版」によるサンスクリットからのダイレクトな翻訳で、日本の法華経研究は新局面を迎えたことになる。橋爪さんとの対話の中で、ブッダ本来の教えとは何か、「法華経」の正しい読み方などが解き明かされている。

   この四半世紀の自身の人生を振り返り、植木さんはこう話す。

「学生時代に、中村元先生の訳された原始仏典を読んで、〝真の自己〟に目覚めることが強調されていることを知り、極度の鬱病を乗り越えることができました。それ以来、物理学を学ぶ傍ら仏教書を読み漁ってきましたが、独学の限界にぶつかっていたころに中村先生との出会いがあり、41歳から直接、教えを受けることができました。先生は1999年、『博士号を取得すること、学んだことは本にして残すことが重要です』という言葉を私に残して亡くなられました。その学恩にお応えするべく、ひた走りしてきましたが、今後とも学び続けてまいりたいと思っております」

1位は伊坂幸太郎さん「陽気なギャングは三つ数えろ」

   東大生協の11月4日付の新書ランキングは以下の通り。

① 『陽気なギャングは三つ数えろ』(伊坂幸太郎)
② 『ほんとうの法華経』
③ 『大世界史』(池上彰)
④ 『右傾化する日本政治』(中野晃一)
⑤ 『すごいぞ!身のまわりの表面科学』(日本表面科学会)
⑥ 『世界史を変えた薬』(佐藤健太郎)
⑦ 『財務省と政治』(清水真人)
⑧ 『ロラン・バルト』(石川美子)
⑨ 『「昭和天皇実録」を読む』(原武史)
⑩ 『天野先生の「青色LEDの世界」』(天野浩)

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