繰り返される"ガラパゴス政治" 依然「三周遅れ」の日本の国会
オバマ米国大統領が、その就任前に著して、日本でも大いに読まれたのが、「合衆国再生~大いなる希望を抱いて」(2007年12月 ダイヤモンド社)だ。オバマは上院議員となり、民主党の大物議員ロバート・バード上院議員に挨拶に行った際、バードは、「規則と先例を学びなさい」といったとのエピソードがある。この記述は、このような古臭さに対する、ワシントン政治になじまない新人オバマの違和感をうまく表現していたと記憶する。
議会ではなにより「規則と先例」
日本においても、アメリカと同様、議会の規則と先例が重要であり、これに精通していることが、当選回数を重ねた議員が、議会の中で議事運営に非常に大きな力を発揮し、それに精通していない新人議員はなかなか力を発揮できないことのゆえんとなる。議会における「規則と先例」には、行政側でも法案担当ともなると、他人事ではいられない。
「新・国会事典~用語による国会法解説(第3版)」(浅野一郎・河野久編著 2014年6月 有斐閣)は、手元において、折に触れて見直す必携の1冊である。本書の編集担当者がいうように、国会の議事手続や運営に関する事項は、憲法、国会法、議員規則などに定められているが、事案によっては、それらの法規には定めがなく、同種事案についての先例を探して解決しなくてはならない場合もある。なお、各議院においては、議院と委員会運営に関し、それぞれ先例集を作成している。参議院のものは現在ホームページ上で閲覧できるようになったし、衆議院のものも、国会図書館等で閲覧できる。
国会の「『決める仕組み』の欠如」指摘し「13年夏 政治書」ベスト1
日本の政治が、ヨーロッパの先進国などに比べ、「ガラパゴス化」していると主張し改革案を提示したのが、小選挙区制導入など日本の政治改革の理論的支柱の1人として活躍した著名な政治学者の野中尚人学習院大学教授である。野中氏の「さらばガラパゴス政治~決められる日本に作り直す」(2013年4月 日本経済新聞社)は「週刊東洋経済」「2013年夏 経済書・政治書 ベスト30」の政治書のベスト1に選ばれた、当時話題の1冊である。
この著書の第3章では、「ガラパゴス化する国会 日本の常識・世界の非常識①」として、政府提出法案を政府・多数党主導で可決・成立させる基本的な仕組みがない主要国は日本だけであるという。また、「『決める仕組み』の欠如」として、日本の国会では、決定も実行もさせないことを繰り返し、その表れとして、日程闘争による結論引き伸ばし、特に議会政治を否定する「審議拒否」をあげる。また、逐条審議や修正活動なしで、「いじめ」風の質疑に終始する絶望的に非効率・非機能議会であるという。
一部憲法学者の所論ばかりが目立った最近のメディア報道
先進国の中で「三周遅れ」の国会であり、とにかくルール変更に臆病であり、あらゆる改革を拒絶していると断じる。そして、国会は「討議し決定する」仕組みの骨格を明確にさせることが必要だとし、国会審議への首相・大臣の召喚をできるだけ控えるなどすぐにでもできるものから、会期不継続の原則(会期中に議決にいたらない法案は廃案になる)の見直しなど法律改正を要するものなどを幅広く提言している。
極端な国会至上主義に陥っている国会の仕組みを抜本的に改革することによって、国会の中で「決める仕組み」を確立する。それによって、まっとうな議院内閣制として機能することを目指すというのだ。この2年前の碩学の真摯な提言が、一部の憲法学者の所論ばかりが目立つ、最近のメディア報道では全く顧みられなかったのをどう考えるべきなのか。
経済官庁(総務課長級 出向中)AK