【BOOKウォッチ】
予期せぬことは必ず起こる、噴火などの自然災害に人はなにを学ぶか

   「もう大丈夫」「まだ大丈夫」「今までなかったから平気」などと、人は漠然と自分のものさしで判断しがち。しかしそれがいかに危ういものであるかを実感させる厳しい災害がいくつも現実に起こっている。自然の脅威に対して人ができることは少ない。しかし非力、無力でもない。なにができるのか、どうすればいいのかを歴史に、科学に学ぶことはできる。今回は「噴火」「災害復興」を主テーマに3冊をピックアップ。

   J-CASTニュースの新書籍サイト「BOOKウォッチ」(https://books.j-cast.com/)でも特集記事を公開中。

複合大噴火
Read more...

1783年の浅間山大噴火がフランス革命に影響

『複合大噴火』

   『複合大噴火』(著・上前淳一郎、文藝春秋 637円)の複合とは今から230年ほど前に相次いで起こった日本・浅間山とアイスランド・ラキ山の大噴火のことである。浅間山大噴火は溶岩流で2000人が亡くなるなど、今の言葉で言えば激甚災害。江戸の町にも灰が降り積もり天明の飢饉の困窮に拍車をかけることになり、これが老中・田沼意次の失脚、松平定信台頭、寛政の改革へとつながるのだが、しつはこの大噴火が日本だけでなく、遠く離れたヨーロッパにも気候的影響を与えた。浅間山、ラキ火山の相次ぐ噴火が互いにシンクロし合って、噴火―アンブレラ現象―熱バランスの変化―偏西風の蛇行―異常気象、世界的不作をもたらした。小麦不作、パン不足、飢餓・不満増大が、フランス革命のきっかけとなったのだ。

   「パンがなければケーキを食べればいい」と言ったマリーワンネットの運命を左右したのが、日本の浅間山大噴火であったかもしれない......? そんな歴史ロマンを感じさせる骨太の書。想像を絶する大噴火が実際に起こった事実。それにともなう世界的影響、あるいは政治の混乱などを歴史に学び、今に生かすことの大切さを示唆する名著である。

困難、危機に立ち向かうリーダーはいつもいる

『復興の日本史 いかにして度重なる災害や危機を乗り越えてきたか』

   『複合大噴火』が1783年の浅間山大噴火前後の時代にテーマを絞っているのに対し、『復興の日本史』(著・河合敦 祥伝社 648円)は、古代、中世、近世、近代、現代のいろいろな事例をもとに、副題にあるように「いかにして度重なる災害や危機を乗り越えてきたか」が学べる書。著者は現役の都立高教諭でテレビ『世界一受けたい授業』でもお馴染みの先生だ。

   「天変地位続発からの救済を大仏建立に求めた聖武天皇」「衰退する京都を救った門倉了以の河川開削事業」「津波から村人を救った醤油王・濱口梧陵」「日本初の公害のために国家と闘った男・田中正造」......人物にスポットを当てながらそれぞれの危機管理を平易に解説してくれる。いつの時代にも、困難に立ち向かう、危機を乗り越えるリーダーがいたのだ。

   今の時代のリーダーが果たして同書に掲載されるだけの資質があるのかどうか、あるいは今後、そういったヒーローが現れるのか、それは後世の歴史家が判断することだが、本書を読んで、日本人はたいしたものだと少しは自信がもて、元気になれるかもしれない。

「もし」が明日になってもおかしくない!

『もし富士山が噴火したら』

   「もし」の時期がいつになるかはわからない。漠然とまだ大丈夫と思っているから山頂で渋滞ができるほど富士登山客が多いのだろう。でもほんとうに大丈夫なのか? 貞観6年(864年)に富士山噴火があり、その5年後に太平洋沖で貞観地震が起きている。そういった歴史的事実からも東日本大震災が富士の噴火を誘発する可能性がだってあると、本書のなかで著者は危惧している。科学で解明できること、予測できることが増えているといっても、人智をこえたものの前では、まだまだわからないことばかり。

   だからこそ、今知りうることを共有することが、防災、減災につながるわけで、『もし富士山が噴火したら』(著・鎌田浩毅、イラスト・ 高世えり子、東洋経済新報社1512円)は、富士山や火山のメカニズム、そして万が一の場合に自分の身を守るためにはどうしたらいいかをなどを、『理系クン』でおなじみの高世えり子の漫画をナビにして、京都大学の火山専門家が素人向けにわかりやすく解説したもの。タイトルについた「もし」を「明日」「半年後に」などと解釈してもいいだろうし、同じくタイトルについた「富士山」を他の日本の火山におきかえてもかまわない。

注目情報

PR
追悼