霞ヶ関官僚が読む本
図書館が進む道は…"民営化"か秘めた潜在力の発掘か
今年(2014年)も7月初めに、出版界の一大イベントである、東京国際ブックフェアが都内で開催され、関連のシンポジウムも多数行われた。7月3日には、日本書籍出版協会と日本図書館協会の主催で、「図書館・出版、変わりゆくコミュニティの中で」をテーマとするシンポジウムが開かれた。従来、お互いの事情をあまり知らない、図書館界と出版界が、ながらく続く出版不況の中、相互理解・連携を深める必要性を感じ、開催に至った由だ。
この動きを生み出した要因の大きなものとして、批判的な論者からは「TSUTAYA図書館」と揶揄される「武雄市図書館」(佐賀県)登場のインパクトがあげられる。
「TSUTAYA図書館」の勝利宣言
高らかな勝利宣言…
樋渡啓祐武雄市長の「沸騰!図書館~100万人が訪れた驚きのハコモノ」(2014年5月 角川ONEテーマ21)は、この図書館を悪し様に批判してきた「図書館業界」関係者への高らかな勝利宣言だ。樋渡市長が、関係者の「図書館道へのこだわり~他の型を認めない」、「リベラルもどき~あれが足りない、これが足りない」、「利用者の定義~利用者視線ではなく管理者視線、利用者より本が好き」といった性向を批判する。これに自信を持ち全面的に反論できる者がどのぐらいいるのだろうか。
上記のシンポジウムで、出版社側から問題提起・懸念表明のあった、ベストセラー本の「複本」(同一本を多数蔵書とすること)や雑誌閲覧の、経営面への影響に関して、武雄市図書館のありようは、図書館でベストセラー本・雑誌を貸出し・閲覧するのではなく、早く見たい人には販売し、本の利益を確保し出版界の自律的再生産を維持し、市民の私的ニーズに対応するための、1つの有力な解決策を示している。また、展示のプロである書店のノウハウをもっと図書館に導入することを考えるべきだろう。そのような観点からも、いまや紀伊国屋書店の売り上げを抜いたとされるTSUTAYAを経営するカルチュア・コンビニエンス・クラブが図書館の管理・運営に参入したことの歴史的意義は軽くはない。
伝統的図書館業界の試み
一方、伝統的な図書館業界でも、自治体を取り巻く厳しい経済財政状況などから、いろいろな動きがある。それを活写・考察したのが、「つながる図書館―コミュニティの核をめざす試み」(猪谷千香著 ちくま新書 2014年1月)だ。「図書館業界」関係者が理想とする、武雄市のお隣の伊万里市にある「伊万里市民図書館」の記述は非常に興味深い。優れたジャーナリストとして、非難囂々の武雄市図書館も併せて冷静に記述しているのが印象的だ。人が集まる「広場」をめざす東京都武蔵野市の「武蔵野プレイス」や、納税者の視点に立った、問題解決型図書館の先駆けである鳥取県立図書館の紹介内容もとても素晴らしい。
図書館長の見方
また、長野県塩尻市立図書館の館長として優れた手腕を発揮した内野安彦氏の「図書館長論の試みー実践からの序説」(樹村房 2014年5月)は、内野氏の図書館関連3冊目の著作であるが、類書のあまりない図書館長の仕事をわかりやすく解説した画期的な著作である。
図書館長・員は、本好きよりも人好きであってほしいという著者の強い願いがこの著作から熱く伝わってくる。また、「図書館は人がすべて」、「なぜか語られないホスピタリティ」、「図書館員の倫理綱領」で出版文化を守るのが図書館の役割と言及しつつも、それが深められていない現状の指摘など、いずれも示唆に富む。地域経済社会を活性化する上で、図書館の豊かな可能性、秘められた潜在力の大きさを改めて再確認させられる1冊だ。
経済官庁(課長級)AK