【書評ウォッチ】ライト感覚のふるさと作り 都会と田舎を行き来して

   都会か田舎かどちらか一つに居場所を決めなくてもいいじゃないか。両方を行き来して無理なく暮らす生き方を『フルサトをつくる』(伊藤洋志、Pha著、東京書籍)が提案する。そこには定住・移住の「二者択一」や「骨をうずめる」といった力みはない。地縁血縁のない土地だって故郷にできるし、田舎の方が解放感も自由度も高いとの見方もできる。軽く、楽しく、気がねなく好きなことをやれる場所を探したらいいという。しかも、国や自治体の補助金などに頼らず、大企業からカネを引き出すわけでもない。人間の新しい生き方や過疎地振興の、ここにヒントがあるかもしれない。なかなか、やる。【2014年7月13日(日)の各紙からⅡ】

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田舎の方がやりやすいことも


『フルサトをつくる』(伊藤洋志、Pha著、東京書籍)

   著者2人は1978年と79年生まれの元サラリーマン。人の縁からたまたまたどりついた熊野の山中に「ヤバくなったときにそこに帰れば死なないというセーフティーネット」を見出して、楽しく過ごそうと創意をこらす。

   家を探し、修理し、楽しみながらコミュニティをつくる。ときには都市と地方を行ったり来たり。そこで「田舎はチャレンジするスペースが空いている」と気づいたのが何より大きい。都会では手に入らない広さや「フロンティア感」があり、周りに気兼ねすることも少ないそうだ。シェアハウスやシェアオフィスなど、専ら都会的なイメージで考えられてきた仕掛けもむしろ田舎の方がやりやすいというのは、使える着想だ。

   もう一つ特徴的なのは、地域振興などの活動をする人たちの一部がともすると求めたがる行政との結びつきや支援を意識していないこと。自治体の補助金だの、大企業の資金援助だのは、あっけらんとするほどアテにしない。自分たちでやれることをやろうという自然さ。あくまでライト感覚の、さりげないけれど結構したたかな強さがにじむ。

里山で原価0円の豊かさを

   都会を漂流するひ弱な若者たちが目立つ現代に、こういうやり方・考え方はどうだと問いかける点が貴重だ。「小さなお金で満足できれば、フルサトは誰でもつくりだせる」と、朝日新聞の評者・建築家の隈研吾さんは読み解いている。

<もう一冊>『里山を食いものにしよう』(和田芳治著、阪急コミュニケーションズ)が読売新聞に。刺激的な書名だが、自然を食いつぶしてやれというのではない。

   里山を利用して「原価0円」で暮らしを豊かにするという、その実践例を広島から。評者は漁業経済学者の濱田武士さん。

(ジャーナリスト 高橋俊一)

   J-CASTニュースの書籍サイト「BOOKウォッチ」でも記事を公開中。

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