【書評ウォッチ】嫁・娘・妻ではなく「なぜ、おれが」 「息子介護」という現実問題
他人事と思っている問題が実はついそこまできていることは、しばしばある。『迫りくる「息子介護」の時代』(平山亮著、光文社新書)は、少子高齢化社会で次に何が起きるかを見すえた本だ。嫁でも娘でも妻でも夫でもなく、息子が自分の親をじかに介護すること。冷静に考えれば、あしたの日本では当たり前の事態かもしれない。書名どおりの現実に対処する準備が政治、経済、家族、個人の、どのレベルでも急がれる。【2014年5月4日(日)の各紙からⅡ】
夫婦関係、地域で、職場でどうしたら
『迫りくる「息子介護」の時代』(平山亮著、光文社新書)
少子化で兄弟姉妹が減る。非婚化で生涯配偶者をもたない人が増える。それも急速に進んでいるのが、今の日本だ。妻がいても、そちらも少子化にはちがいないから自身の親の介護で手いっぱいの確率がきわめて高い。
となれば、男が自分の親を介護するしかない。働き盛りであろうとなかろうと、結婚していようが独身だろうが、親の介護を実の子が担う構造へと世の中が確実に進行中なのだ。もちろん男だろうと女だろうと、それが逃げられない現実だ。
著者は1979年生まれの社会心理学者。そうした「介護をする息子たち」28人から聞き取り調査をした。そうなったときの夫婦の関係、地域の中でどうふるまうか、職場での仕事の進め方、人間関係をどうするか。考えることはいっぱいあり、どれもが深刻な問題をふくんでいる。
胸に酢を詰め込まれるような切実感
「なぜ、おれが」といった自問もついて回る。きょうだいがいれば、介護者にならなかった兄弟、嫁いだ姉妹とのかかわりも微妙だ。仕事や同僚の反応を考えただけで、想像されるのは胸に酢を詰め込まれるような、たまらない切実感。超高齢化と非婚化の進行を見れば、まさにもう他人事ではない。
「現実を見据えるため、ぜひご参照されたい」と、朝日新聞の評者・水無田気流さんが一読を勧めている。
<もう一冊>『巨大津波 地層からの警告』(後藤和久著、日経プレミアシリーズ)が毎日新聞に。津波の痕跡を研究する地質学者が、地層の堆積物から災害を考えた。
仙台平野の場合、内陸3・5キロまで、過去の津波が運んだ砂が縞模様に堆積しているそうだ。「巨大津波が繰り返されているから気をつけて」と、地層が言ってくれていた。評者は日本近世・近代史の磯田道史さん。
(ジャーナリスト 高橋俊一)
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