【書評ウォッチ】フクシマを40年前にピタリ予測 塗りつぶされていた警告の書
原発の大崩壊はとっくの昔に予測・警告されていた。壊滅的な事故発生の危険を言いあてた専門家がいたことを『原発は滅びゆく恐竜である』(水戸巌著、緑風出版)が教えてくれる。
放射能被害の恐ろしさや技術的欠陥をいくら指摘しても、当時は原発推進派や御用学者たちの冷笑と中傷で塗りつぶされた。その先駆的論文・講演・裁判関連の資料集が一冊にまとまった。福島第一原発事故とほとんど変わらない、驚くほどのリアリティ。原発復活ムードが流れ始めた日本に、再びの警鐘となるのか、あるいはまたも無視されるのだろうか。【2014年4月27日(日)の各紙からⅡ】
推進派は事故後にも平然「予測を超えていた」!
原発は滅びゆく恐竜である
東大などで原子核物理学を研究していた著者は1970年前後から原発の危険性を力説、建設反対の運動や訴訟に科学者の立場から資料を提供してきた。福島第一原発事故の40年以上前だ。事故の可能性を理路整然と指摘し、周辺被害についても警告を発した。
「大事故をひき起こす原因のうち最も大きな可能性があるのは大地震」「外部電源喪失により致命的事故になる」「高温の金属と水の反応により水素ガスが発生する」
まるでその通りだったではないか、福島第一原発事故は。
ところが、電力会社はもちろん官僚も政治家もいっこうにとりあわなかった。御用学者ともども原子力ムラと言われる人たちは、それが彼らの仕事であるかのように警告を無視するか、怪しげな反論を繰り返して市民をケムに巻いてきた。挙句に、事故が起きると「予測を超えていた」と平然と語るのだから、ハレンチとしか言いようがない。
「原子力ムラのうそ」を見抜く
本は「原子力発電はどうしてダメなのか」を解説。スリーマイル島やチェルノブイリにも触れて、「日本の原発も危険である」との指摘が今につながる。福島は予測できない例外で他の原発は安全といった推進派の論理が確たる根拠もなく広がる気配に、いま世に問う意義は大きい。「原子力ムラのうそを見抜く根拠が提起された」と、中日と東京新聞の評者・橋本克彦さん。恐るべき予測的中の書だ。
<もう一冊>『ツアー事故はなぜ起こるのか』(吉田春生著、平凡社新書)が、旅行ブームの陰にひそむ危険を考える。
老人の山岳遭難や秘境トラブル。効率優先の団体旅行には常に事故のリスクが伴うと、旅行代理店勤務20年の「観光のプロ」が注意をうながす。朝日新聞に評者無署名で小さく。
(ジャーナリスト 高橋俊一)
J-CASTニュースの書籍サイト「BOOKウォッチ」でも記事を公開中。