【書評ウォッチ】グーグル会長がみずから語る ネットの「とてつもない善」と「おぞましい悪」
世界の80億人がネットでつながる社会の先に何があるのか。『第五の権力 Googleには見えている未来』(エリック・シュミットら著、ダイヤモンド社)がクールに分析している。オンラインで個々人が情報の収集力と発信力とを手にすると、暮らし、国家、革命、戦争はどう変わるのか。
この問いに高度情報社会の最強企業・グーグルのシュミット会長がみずから答えた本だ。バラ色の夢よりもむしろ危険性や暗部に、チャンスよりはリスクに重点をおいて語るのが特徴。グーグル自身の巨大化に触れない点は少しずるいが、確かにうなずける、的確な予測が盛られている。【2014年4月6日(日)の各紙からⅠ】
ネットですべてが解決するわけではない
『第五の権力 Googleには見えている未来』(エリック・シュミットら著、ダイヤモンド社)
本のタイトル「第五」は立法、行政、司法の三権にマスコミ報道機関を「第四の権力」とし、さらに個人と個人を結ぶインターネット社会を並べて名づけた。国王や皇帝や教会といった旧権力を新しい情報技術が打ち倒してきた歴史に学べば、第五の権力は間違いなくあり、しかも過去にない早さで拡大を続けている。
それは「とてつもない善を生み出すとともに、おぞましい悪をもはらんでいる」と、ネット世界をリードしてきた著者自身が言い切る。ネットが素晴らしい社会をつくるとばかりに浮かれまく俗物学者とは大きな違い。そこに価値ある一冊だ。
ネットが「アラブの春」のように独裁政権をひっくり返す力にもなることは、もう誰もが知っている。しかし、その先が大混乱、多くの国で政治や支配関係の対立からいっこうに脱せないことも事実だ。ネットですべてが解決するわけではない。
一方で、ネット情報には他国や個人の情報を集める機能もある。サイバーテロが増え、サイバー兵器がロボット技術と相まって戦争のやり方を変える。個人が持ったはずの力に個人が追いつめられかねない側面も、本は隠さない。
誰もが仮想世界を意識して生活する
市民生活は「これまで真剣に考える必要のなかったリスクにさらされる」と、日経新聞の評者・富士通総研の湯川抗さん。ネットと関わらなければすむか。いや、オフラインが珍しい世界では、個人をむしろ特定しやすい。もう誰もが「仮想世界を常に意識して生活せざるを得ない」らしい。
グーグル社が随分前から軍事ロボット企業の買収やメガネ型端末の開発に乗り出したのは、こういう予測に基づく投資だったことも本からわかる。ネットが必ずしも善ではないのと同じで、グーグルという大資本も当然にも善ではないということだろうか。
(ジャーナリスト 高橋俊一)
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