霞ヶ関官僚が読む本
叱咤で子どもの「やる気」は出ない…まずは適度な「ハードルを越えた感」を
学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話(坪田信貴著、KADOKAWA)
まさに書名どおり、学年ビリ、偏差値30の「ど派手な」女子高生(ビリギャル)が1年半で慶應大学に現役合格したドキュメンタリー。現時点(平成26年3月現在)で20万部を突破したベストセラー。
書店で平積みされている様子を何度か見かけたが、派手な表紙と軽薄な書名に抵抗感があり、手に取ることもしなかった。正直なところ、「塾の宣伝?」、「表紙の女の子の芸能界入りのお手伝い?」など穿った見方すらしていた。
しかし、先日、新聞に載っていた著者のインタビュー記事「ダメな人間などいません。ダメな指導者がいるだけ」を読み、思い直して購入した。
「ビリギャル」の奇跡
偏差値30から慶應現役合格のドキュメンタリー
本書の主人公「さやかちゃん」が著者の塾に入ってきたのは高校2年生のとき。中高一貫、それもある程度の成績をとっていれば、エスカレーター式で大学まで進学できる境遇。しかし、中学入学以来、遊び呆け、その素行の悪さから無期停学を何度もくらってしまい、進学の目途も立たない状況だった。
入塾時点では、「strong」は「日よう日」、「聖徳太子」は「せいとくたこ」と呼ぶレベルだったという(さやかちゃんは、聖徳=姓、太子=名と考え、1万円札にもなったこの著名な歴史上の人物を「太った女性」だったと理解していた)。
そんなさやかちゃんが、著者との出会いを契機に、私学の最難関大学に挑戦しようと決意。これまでの生活を改め、中学の超基礎問題集からスタートし、最終的に合格するまでの物語が本書の中身。
具体的なストーリーは、ここでは触れないが、この奇跡の物語を一読して最も感銘を受けたのが、さやかちゃんが、(ゼッタイ無理と思われるような)高い目標を設定し、その実現に向けて「やる気」を維持できたことだ。
私たち大人を含めて、人生において容易ならざることは、(実現困難と思われる)難しい目標を掲げ、あきらめることなく、日々、努力し続けることだろう。さやかちゃんはそれをやり抜いた(だからこそ、こうして本にもなっている!)。
本書のポイントは、なぜ、さやかちゃんが、この険しい登頂をやり遂げることができたかである。
ダメな人間などいません。ダメな指導者がいるだけ
「子どもにとって、受験より大事なのは、絶対無理って思えることをやり遂げたっていう経験なんです」
ゼッタイ無理と思われるようなことでも、自分はやるんだ、できるんだと目標に設定することがまず大事。そこを諦めさせてしまっているところが、大人(指導者)の情けないところ。と同時に、大人自身が、はなから無理だからと諦めてしまっていることが最大の原因だという。
日頃、中間管理職として、部下の育成に四苦八苦している評者にとっても、胸に刺さる言葉だ。
「やる気」にさせるには、煽るのではダメ。「やる気」になるから、できるようになるのではなく、できるようになるから、「やる気」になるのだという。
問題集も、○が6割、×が4割になるようなものを選ぶのがよい。分からない問題がほとんどだとやる気が起きない。やる気を引き出す際に大切なことは、適度な「ハードルを越えた感」だとする。
「アタリマエ」のことを言われている気もするが、なかなかどうして、部下の指導も、我が子の教育も、こんな風にはいかない。
日頃、「やる気」が出ない我が子に対して、つい、「やる気さえあれば何だってできる。やる気を出せ」と虚しい叱咤を繰り返していたことを思い出す。
受験期の子を持つ親のため、ばかりではなく…
「できない生徒をできるようにするのが教育なのに、指導者がその努力をせず、過去の傾向や手近な選択肢で将来を決めてしまっている気がします」
「誰かに無理だと言われても『自分ならやれる』と思い込んで口にし続ける。そして、そこに『大丈夫だよ』という信頼できる人の肯定が加われば、相当頑張れます。その子は確実に能力を伸ばしていけるのです」
書名を見る限り、受験期の子を持つ親のための本かと思われたが、ダイニングテーブルに置いてあった本書を手にとった我が娘(中学3年)、風呂にも入らず終わりまで一気呵成に読んでいた。「感想は?」と問うと、「内緒!」との答え。子どもにとっても、面白い本のようだ。
厚生労働省(課長級)JOJO