【書評ウォッチ】賃上げで所得再配分を 国債のカラクリとは?
ベースアップをふくめた賃上げが大企業を中心に相次いだ。アベノミクスがいよいよ効果を上げるのだろうか、中小企業や非正規労働者にはどうか。いま、経済の問題を問いかける本が2冊。『賃上げはなぜ必要か』(脇田成著、筑摩選書)は、企業だけがもうけてもダメだとマクロ経済学の基本から所得再配分を説く。『国債リスク』(森田長太郎著、東洋経済新報社)は、総額1兆円に膨れ上がる日本国債のカラクリと今後の行方を確率で示しながら問いかける。どちらもおかたい書名だが、実は暮らしに直結する問題だ。【2014年3月16日(日)の各紙からⅡ】
「賃上げがなければ経済はしぼむ」
『賃上げはなぜ必要か』(脇田成著、筑摩選書)
アベノミクスは大胆な金融緩和。景気回復が賃金につながらないじゃないかと批判も盛んだった。それが今年の春闘に政府主導の賃上げ呼びかけが行われて、大企業に限るとベースアップラッシュの雰囲気だ。
しかし『賃上げはなぜ必要か』に言わせれば、人件費を節約し、企業内にカネ(内部留保)がいくらたまっても、経済はしぼむ。企業の不景気にかこつけた焼け太りよりも賃金増大が必要だったということだろう。賃上げはもっと早く、中小企業や非正規の労働者にももっと広くやるのが筋と読みとれる。
それが今までずれ込んだのは、多くの企業がもうけながら銀行への借金返済と自己資本比率を高めることばかりに力を入れ、労働組合も掛け声はともかく実質的に賃金低下を許容してきた点にあるという。
「本書のメッセージを一言でいえば、企業に賃上げを促し、粛々と少子化対策を打てば良いということだ」と、東京と中日両紙の評者・京都大学の根井雅弘さんが薦めている。
国債は「見えない税金」
金融緩和の一方でいっこうに減らない財政赤字と賃上げや資金の流れについて考えたのが『国債リスク』。
国債を主に買っているのは銀行だが、その出元はみんなの預金だ。企業が長く賃上げをしないでためた資金も銀行へ。それらで銀行は国債を買ってきた。預金と国債の金利差を考えれば、まるで「見えない徴税システム」だとの指摘。金融機関にもうけさせているだけとは言わないが、それに近い構造をついた一冊だ。
その国債暴落の可能性を、本は3%ほどと推測。この確率がアベノミクスによってほんの少し上昇したのではと、著者は冷静にはじき出している。朝日新聞の評者は森健さん。
(ジャーナリスト 高橋俊一)