【BOOKウオッチ】
震災によって戦後は終わった 「金のさんま」とおかみの生き方
東日本大震災から3年を迎えた。あの日、自分は何をしていたのか。あれから何が変わり、変わらなかったのか。これから被災地は、そして日本はどうなるのか。「3.11」は、誰もが立ち止まって考える日だ。明日に向けて一歩を踏み出すために、確かな1冊を見つけたい。
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「ピッカピカおかみさん」の奮闘記
『おかみのさんま』
「斉吉商店の和枝さんは、いっつもピッカピカなんです」とコピーライターの糸井重里さんが本の帯に書いている。斉吉商店とは、宮城県気仙沼市の古くからの魚問屋だが、食品加工にも手を広げ、地元で獲れるさんまをやわらかく煮込んだ「金のさんま」が看板商品だ。和枝さんはその3代目おかみであり、日経BP社の日経WOMAN選書『おかみのさんま 気仙沼を生き抜く魚問屋3代目・斉藤和枝の記録』(著・斉藤和枝、1470円)は、震災を乗り越えた奮闘記である。
津波に襲われ自宅兼本社も工場も販売店も全壊したが、持ち前のバイタリティーで事業再開にこぎつけた。その秘訣はなにか。「どんなときでも、とにかく動く」「つらいときでも『いいこと探し』をする」――。糸井さんによれば、「金のことば」がいっぱい詰まっている。
震災ミュージアムの設置を提言
『ふくしま再生と歴史・文化遺産』
震災や原発事故であらゆるものが被災したが、地域に根付いてきた歴史資料や文化財はどうなっているのか。山川出版社の『ふくしま再生と歴史・文化遺産』(編著・阿部浩一、福島大学うつくしまふくしま未来支援センター、1890円)は、その被害状況や保全の取り組みを報告するとともに、今後の伝承や活用に向けた問題提起をしている。昨年(2013年)2月に福島市内で開催されたシンポジウムをもとにまとめた。
地域に伝わる歴史や文化は住民の心のよりどころであり、長期化する避難生活で崩壊の危機にあるコミュティ―再生の鍵となるものだ。これまで見落とされがちだったが、今回本格的にまとまった形になった。今後の復興とふくしま再生のために震災ミュージアム(仮称)の設置を提言している。
豪華執筆陣による刺激的な論文集
『「災後」の文明』
「3.11の東日本大震災の勃発によって、この国の長い長い「戦後」に終止符が打たれ、新たに「災後」の時代が始まった…「災後」の自立は、「戦後」の否定の上に成り立つであろう」。「序」でそう述べているように、歴史の転換を意識したスケールの大きい視点である。阪急コミュニケーションズの『別冊アステイオン 「災後」の文明』(責任編集・御厨貴、飯尾潤、編・サントリー文化財団「震災後の日本に関する研究会」、1890円)は、このような問題意識で始まった研究会の議論と研究成果を1冊にまとめたものである。
取り上げているテーマは被災地復興、自衛隊、グローバル化、天皇制、ソーシャルメディア、リスボン地震・・・と幅広い。政治、経済、社会学をはじめ各分野で活躍中の豪華執筆陣による、これからの日本のあり方を考えるための刺激的な論文集となっている。