【書評ウォッチ】脱サラして「稼がない自由」 減速派の「ダウンシフターズ」って?
生き方論をごく大ざっぱに分けると、「モーレツ加速」型と「ノンビリ気楽」型の2タイプに最後にはいきつく。その典型的な一冊が文庫化された。『減速して自由に生きる』(高坂勝著、ちくま文庫)は、脱サラして店を開業・自由に暮らしていますよというよくあるお話だが、内容は具体的で参考になりそうだ。世間のシステムから降りて自立するまでの勇気と縛られない心意気。書名の一部かサブタイトルか、「ダウンシフターズ」の考え方に共感する人が増えるかもしれない。【2014年3月2日(日)の各紙からⅠ】
例外なくつきまとう戸惑いも
『減速して自由に生きる』(高坂勝著、ちくま文庫)
著者は30歳で心労から脱サラし、小さなオーガニックバーを開業して「稼がない自由を謳歌」したのだそうだ。店を週休2日に、さらに3日にしてNPO活動。で、何かと楽しみながら講演・執筆で自営と自給を勧めているという。
「猛烈路線であくせくするな」は分かるけれど、「これで食べていけるのか」はよくわからない。それだけの価値と魅力が著者の生き方にあるからこそ共感が広がったことは間違いないだろう。同時に「誰もがそうはいかないよ」という想像も自然とわいてくる。
こんな平凡な常識論にこだわっていては脱サラなんてできないのだろうが? 疑問や戸惑いが、この種の生き方論にはどうしてもつきまとう。この本も例外ではない。そこを意識したうえで読み解き、自分にあった生き方を模索するしかない。
本自体はよくできている。「自給→自信→自立→自由」とのパターンも、掛け声だけではない説得力がある。15の方法も示す。「ちいさな個人の生き方が、様々なほころびを露呈した大きな世界を変革する一歩となりうることを教えてくれる」と朝日新聞の、妙に格調高い無署名書評。その面はあるが、脱サラをめざす人は切実で世界変革どころではない。
パンダに振り回された人間たち
ほかには『パンダが来た道』(ヘンリー・ニコルズ著、白水社)が、なかなか鋭い。人間が「可愛い」と感じる動物を研究し、繁殖させ、あるいは政治利用した記録だ。周辺で巻き起こる、人間たちの愚かさをもしっかりと突いている。
えらい労力をかけた研究と愛護の一方で、環境破壊をして、当の動物を脅かす人間行動の皮肉。他の動物にはまるで無頓着なのも、おかしな話だ。中国が政治的思惑で出し入れしたことも忘れてはいけない。そのたびに振り回され、大騒ぎするのはどこの国の誰だ?
「パンダの未来よりも、人間の未来を心配したらという気持ちがわき上がる時、少し反省すれば、気づくはずだ」と指摘する日経新聞・金森修さんの評も鋭い。
(ジャーナリスト 高橋俊一)
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