【書評ウォッチ】科学者が解き明かす幸福論 客観的に人の心を眺めると
幸福論は、どうも説教めく。ときには宗教じみた分別臭さえするのだが、元エンジニアの脳・ロボット学者とジャズシンガーでもある内科医がそれぞれに科学的に解き明かそうとした本が二冊。『幸せのメカニズム』(前野隆司著、講談社現代新書)と『幸福力』(海原純子著、潮出版社)。幸福の仕組みを分析し、心と体の実践的なアドバイスを提示する。迷える現代人の指標になろうという意欲作だ。【2014年2月23日(日)の各紙からⅡ】
4因子のメカニズムやポジティブ・シンキング
『幸せのメカニズム』(前野隆司著、講談社現代新書)
幸福論は繰り返し世に出される出版界の定番。それだけ幸せを求めて思い悩む人がいる実状の反映か。その幸福を機械と同じように分解してみせるのが『幸せのメカニズム』だ。幸福の構造をつきつめた著者は、人を幸せにする因子が四つあるという。
「やってみよう!」「ありがとう!」「なんとかなる!」「あなたらしく!」だ。なんでいちいち感嘆符をつけなければならないか、もう一つわからないが、それぞれに感じたときが幸せなのだということらしい。このメカニズムがわかれば「人間の脳は、思わず幸福を目指してしまいます」とのこと。無茶な内容はなく、うなずける考え方ではある。読売新聞に無署名の評というより紹介記事が小さく載った。
一方、『幸福力』の著者は心療内科医。「嫌なことを乗り越えていく力」を幸福力とよぶ。幸福になるためには「幸せになろうというビジョンをもつ」ことが必要という観点から、「ポジティブ・シンキング」物事を前向きに考える姿勢を強調する。自分を客観的に眺め、ストレスの原因と向き合おうと。
医療現場で人々と触れてきた医師ならではのリラックスの方法や自分に合った休息ルール。心と体を整えるアドバイスをおくる。「医学的な解説が、実践についての説得力を持たせている」と、毎日新聞の「霧」1文字の評者が薦めている。
なぜ治るのかを問いかけた大作も
心理療法を扱った大作『セラピスト』(最相葉月著、新潮社)が朝日と中日、東京新聞に。精神科医やカウンセラーらの世界を5年かけて取材・執筆した。河合隼雄氏の「箱庭療法」について考え、中井久夫氏の「絵画療法」も自ら体験した。それでなぜ治るのかを問いかけ、時代とともに変わる患者の症状と治す側の試行錯誤を描いた。
「市民のこれからの課題にまっさきに取り組んだ仕事」と朝日の評者・鷲田清一さん。中日・東京新聞は著者紹介欄に。
(ジャーナリスト 高橋俊一)