【書評ウォッチ】天下国家より守るべきもの 「暮しの手帖」編集長評伝の核心的価値

   日本人の暮らしを見すえた本が。『花森安治伝』(津野海太郎著、新潮社)は、戦後のライフスタイルを変えたといわれた雑誌「暮しの手帖」の、天下国家より人々の暮らしを守ろうという創刊理念が今も輝く。『「粗食」のきほん』(佐藤初女、幕内秀夫、冨田ただすけ著、ブックマン社)は、昔ながらのシンプルな日本食のすすめ。まったく無関係の2冊だが、それぞれにだいぶ異なる考え方や食生活が蔓延しそうな時代だからこそ、読む価値ありの内容が盛られている。【2014年1月5日(日)の各紙からⅡ】

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「国か暮らしか」をどう整理?


『花森安治伝』(津野海太郎著、新潮社)

   「暮しの手帖」は、昭和30年代から40年代にかけて斬新なデザインと当時としては大胆な編集方針で国民的雑誌となった。家庭料理を従来の料理研究家ではなくプロの料理人に作らせて紹介、商品テストをメーカーごとに実施、それらを広告いっさいなしの誌面に載せた。本はその編集長だった花森安治氏の評伝だ。自身も出版人だった著者のち密な資料分析と、先輩への敬意がにじむ。同時に、全面的に肯定してはいないことも特徴だ。

   きれいごとばかりではないのだ。花森氏が戦争中は大政翼賛会の事務所にいたことにも、著者は避けずに触れていく。

   戦後、花森自身が「ボクは、たしかに戦争犯罪をおかした」と認めていたという。だからこその「守るべきは人の暮らし」との創刊理念にいきついたと著者はみる。

   愛国心や道徳が教育現場でなにやら強調されだした昨今、この「国か暮らしか」をどう整理したらいいか、花森氏の生涯が語りかけてくる。この評伝の核心的価値はここにある。

   戦争中の悪名高い国策標語「ぜいたくは敵だ」の書き手は花森氏だったという伝説がある。実は「ぜいたくは素敵だ」を隠していたのだとの説も。さあ、どうか。そのへんもおもしろい。書評は日経新聞に。評者は文芸評論家の安藤礼二さん。

当たり前の食事がどんなにおいしいか

   『「粗食」のきほん』は、日本の食卓をテーマに、米を食べる大切さを説いてきた幕内さんと弘前で食を通じた奉仕活動をする佐藤さんの対談集。「ふつうに炊いたごはんが一番」「食べてみておいしいと思えるところが適塩」「テレビや雑誌の情報に振り回されている人が多い」。ごはんとみそ汁中心の当たり前の食事がどんなにおいしいかを語り合う。読売読書面の評者は前田英樹さん。

   若手料理家・冨田さんのレシピもつく。どれもおいしそうで、やさしそう。サブタイトルは「ごはんとみそ汁だけがあればいい」。きっとそうに違いない。

(ジャーナリスト 高橋俊一)

   J-CASTニュースの書籍サイト「BOOKウォッチ」でも記事を公開中。

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