【書評ウォッチ】特定秘密保護法は「八百長野球以下」だ その狙いと拡大解釈の危険性とは
中身も雰囲気もなんだか戦前っぽい臭いの特定秘密保護法案が、いま開会中の国会で安倍政権のイチオシらしい。その狙いはこれだと説く『何のための秘密保全法か』(海渡雄一、前田哲男著、岩波ブックレット)と、戦前に秘密を漏らしたとして逮捕された青年悲劇の記録『ある北大生の受難』(上田誠吉著、花伝社)が朝日新聞に。
スパイ防止と国民知る権利の大問題。といっても、世間の関心はどこまで?野党の弱さとあいまって、このまま法案成立の気配が強まる。この状態に「しっかり考えよう」と呼びかける読書面トップの特集がタイムリーだ。評者の憲法学者・右崎正博さんの毅然とした解説も、この欄には珍しくわかりやすい。【2013年11月10日(日)の各紙からⅠ】
政府に不都合な事実は持ち出し禁止
『ある北大生の受難』(上田誠吉著、花伝社)
法案は、防衛外交分野で情報を外部にしゃべった公務員らを罰し、家族関係まで調べるという内容。政府に不都合な事実はすべて持ち出し禁止にされる可能性がつきまとう。具体的に何が秘密かに当たるかが、最初からあいまい。それも政府自身が決めて公開さえしないというのでは、選手が審判もやるのと同じ。八百長野球以下の仕掛けだ。
拡大解釈されて政治家や官僚を守るために使われるのでは。国民に何も知らせないで民主主義といえるだろうか。そういう疑問をまとめたのが『何のための秘密保全法か』だ。弁護士と軍事ジャーナリストが法案の危険性をわかりやすく指し示す。
拡大解釈なんて実際にはあるものかと反論するお人がいるかもしれない。しかし、その実例が『ある北大生の受難』。戦前、樺太旅行の見聞を外国人教師に話した北大生が軍事機密法違反で逮捕・拷問された事実がある。海軍施設の情報をもらしたというが、知られたことばかり。しかも、その一審判決文が焼却された形跡を著者は調査中に発見する。
為政者は何でも隠す。「秘密保護」が独り歩きする不安は消えない。
秘密情報をめぐる現代の出来事も
それはもう昔の話だという見方もあるかも。この疑問には『密約』(澤地久枝著、岩波現代文庫)を、評者はあげる。72年の沖縄返還で軍用地復元費400万ドルを日本に支払わせた見せかけの秘密工作。取材した毎日新聞記者と情報提供者の女性外務事務官が逮捕された事件がある。二人の個人的な関係ばかりが話題になり、肝心の不正な秘密政治はかすんでしまった。戦前の話ではない。戦後も戦後、今の社会制度下であった出来事だ。
右に世界のあちこちで盗聴を仕掛ける超大国あり、左には技術情報に貪欲な成り上がり大国。スパイ防止も必要かと迷う面はあるけれど、不自由さを増す方向がいいのかどうか。たしかに考えないといけない。賛否どちらの人にも意義のある読書面にまとまっている。
(ジャーナリスト 高橋俊一)
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