【書評ウォッチ】経済成長で幸せになれるかな 「幸福度」が低い日本の30代
幸せってなんだろう。人間永遠のテーマをタイトルにして、よく似た書名の『幸福の経済学』(C・グラハム著、日本経済新聞出版社)と『「幸せ」の経済学』(橘木俊詔著、岩波現代全書)が毎日新聞に。豊かさや満足感を年齢や国などさまざまな角度から考えた。測る尺度の出発点はどちらも経済だが、幸福=経済成長とは必ずしも言えないことを立証してもいる。単純には決めきれない問題に時代の流れや年代ごとの調査結果がおもしろい。『「幸せ」の経済学』は朝日新聞にも。【2013年8月25日(日)の各紙からI】
ブータンにも変化が
『「幸せ」の経済学』(橘木俊詔著、岩波現代全書)
幸福度を経済成長やGNP(国民総生産)、GDP(国内総生産)で測るのはもう古いし、不正確。途上国の満足度が案外高く、先進国は低いではないか。そう言われて久しいが、『幸福の経済学』は、これに疑問を投げかける。厳しい経済状況下では「適応」するのが精いっぱいで、「期待」する生活水準そのものが低いために満足度は高くなると指摘する。
国民の97%がかつて幸せと答えたブータンの現状を『幸せの経済学』は分析。2010年の新しい調査では、それが半分以下に。ネットなどの情報で他国とのギャップを知るにつれて、満足度は変化した。二つの本が結局、同じことを語っている。幸福の指標は、社会のあり方とともにゆれ動き、なかなか一定しないのだ。
年代統計はU字型カーブ
年齢別の統計では、幸福度がU字型カーブを描くことに毎日の評者・中村達也さんは注目する。単身者より既婚者、とくに女性の幸福度が高いことは、ほぼ世界共通という。若年層の幸福度が高く、年齢とともに低下。40代か50代で最低に。その後は幸福度が上昇するそうだ。
ただし、日本には異なる面が。『「幸せ」の経済学』によると、20代後半と30代の幸福度が低い。この世代の労働をめぐる実情の反映だろうか。
では、与野党がこぞって掲げる「経済成長」で人は幸せになれるのか。「つかみどころがなく難しいテーマだ」と、朝日の評者・原真人さん。「幸福の経済学は、ようやくスタートラインを離れたようである」と毎日で中村さん。内外の調査から幸福度の実相をさぐった2冊、豊富なデータからよくまとめてあるが、それでもまだ「幸せのバロメーター」に絶対的なものはない。
英語圏の感性で仏教をとらえようという『アメリカで仏教を学ぶ』(室謙二著、平凡社新書)を日経が。英語の経典、座禅の姿勢、わかりやすく、とりつきやすいそうだ。
(ジャーナリスト 高橋俊一)
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