【書評ウォッチ】「空気が法律より重い」日本の体質 暗黙の同調圧力を浮き彫りに
KYと言えば、若者らの間では「空気を読めない」こと。組織や仲間内の暗黙の合意や雰囲気に合わせられないことを悪いかのようにみなす日本の「空気」を人気ブロガーがとことん考えた。『「空気」の構造』(池田信夫著、白水社)が朝日新聞に。迷走して決められない政治、組織優先でリーダー不在の企業体質のもとを、これに求めた。周囲の空気を読み合う人間ばかりでは、たしかに改革も危機克服もできないのだが、さてどう読むか。【2013年8月18日(日)の各紙からII】
原発事故対応にも「空気」の影響
『「空気」の構造』(池田信夫著、白水社)
まわりの大勢になんとなくあわせてしまった体験を持つ人は多いはずだ。空気に定義はないが、場の調和を優先して、それ向きの忠誠心や協調心を示す「毎日が企業研修」みたいな振る舞い。それが会社でも組合活動でも、あるいは軍隊でもある・あったと本はいう。
帝国陸軍のインパール作戦から東電福島第一原発の事故対応まで、「そこに待っているのは思考停止と組織の崩壊である」とシビアに指摘。「空気」が雰囲気だけではなく、人々の暗黙の同調を求める圧力になる。そのメカニズムを浮き彫りにしていく。
著者はネット言論界の雄ともいえる論者。この本で経済学や生物学、人類学、民俗学を駆使して「空気が法律より重い国」の体質を解き明かそうとしたらしい。「論争だけではなかなか変えられない日本社会に、少しいらだちを募らせたのだろうか」と、朝日読書面で評者の原真人さん。しぶといからこそ「空気」は問題なのだ。
各自の世界観踏まえて解釈を
経済のグローバル化が進行する今、「空気」にとりまかれてやってきた日本社会や企業がどう変わるか変わらないか。「これではダメだ」「だから、雇用形態の変更を」という安直な論理が財界やその御用学者らから噴出してもいる。それが正規雇用の激減につながることから、一方には「弱者切り捨てをめざす企業に好都合すぎる」との反論も。こうした論争に、参考資料となる一冊であることは間違いない。
内容豊富な、本格的「空気」論。それだけに、結論を早読みせず、まずは読者それぞれが自分の価値観や世界観を踏まえてしっかり解釈していただきたい。
旧来の体質を脱却できずに経営危機に陥った日本航空を再生させたリーダーの記録『稲森和夫 最後の闘い』(大西康之著、日経新聞出版社)を日経が。
巨大企業に乗り込んだカリスマ経営者が闘ったのは、組織に蔓延した「空気」だったともいえる。「近距離から観察」した点を無署名の書評が高く評価している。
(ジャーナリスト 高橋俊一)
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