【書評ウォッチ】エリートはゴミ、ハリボテか 無責任な「東大話法」を告発・批判
もう東大卒にだまされるなと叫ぶ本が出た。書いたのも東大教授だから何か皮肉っぽい話だが、内容は大まじめ。それは確かにそうだなーとうなずける指摘を種々盛った『「学歴エリート」は暴走する』(安冨歩著、講談社+α新書)が読売新聞に。エリートの性質と彼らが社会にもたらした悪影響を「巨大なゴミの山」「ハリボテの集積」とこきおろしている。【2013年7月14日(日)の各紙からI】
エリートが築いた「立場主義社会」
『「学歴エリート」は暴走する』(安冨歩著、講談社+α新書)
福島原発の事故をめぐって東大の卒業生や関係者が数多く登場し、大半が同じパターンの言葉遣いをすることに著者は気づき、それを「東大話法」と名づけてきた。
自分をいつも傍観者の立場に置き、自分の欠点をごまかしながら相手の弱点をとことん攻撃する技法のことだ。主張や見解があたかも正しいものであるかのようにして押し通してしまう。そう言われれば……その種のヤカラと接した人は多いかもしれない。
こうした無責任とごまかしの弊害を、本は戦前から現代までの社会に照らし合わせながら考える。東大卒に代表される学歴エリートをズバリ「気が利く事務屋」と指摘。自分の立場を何より優先する「立場主義社会」を築き上げたと批判を展開する。これが日本の労働、家族像、教育など各分野に蔓延し、あげくの果てに経済戦争とバブル崩壊があると言い切った。
欺瞞を認め、繰り返さないこと
そのうえで「今の日本にもっとも必要なのは、自らの社会を覆う欺瞞を認め、事実を受け入れる」ことだ」と主張。「まずそこからスタートをしないことには、いつまでたっても、同じようなハリボテをつくり続け、そのリスクに頬被りすることの繰り返しなのです」と本気で警告する。
銀行勤務の経験も交えて日本のエリートを分析する著者は、京大卒の東大東洋文化研究所教授。「東大話法」を見抜き、「立場主義」からの解放を呼びかけるユニークな本にまとめた。読売読書面の「記者が選ぶ」コーナーが「佑」一文字の署名で紹介している。
『東大理系教授が考える道徳のメカニズム』(鄭雄一著、ベスト新書)を朝日新聞が。これも東大かとうんざりするが、こちらは子育て論。
どうしても善悪の区別を教えなければならない。親が子にごまかさずに何をどう伝えるかを考えた。「切実な問題を手持ちの道具で解決しようとする姿勢に共感」と、評者の作家・川端裕人さん。「東大話法」ではなく、まじめに論じた一冊らしい。
(ジャーナリスト 高橋俊一)
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