【書評ウォッチ】「ゆるキャラ」のゆるくない実態 広告代理店と組んでビジネス色に

   愛くるしい姿と動作が「かわいい」「癒される」と大評判。ひこにゃん(滋賀県彦根市)、なみすけ(東京都杉並区)、ぐんまちゃん(群馬県)、くまモン(熊本県)など、全国に広まったキャラクターは、その数1200とも1600ともいわれる。でも、人気が沸騰すれば、性格も変わる。素朴な地域振興から皮算用を秘めたビジネスへ、広告のプロが介入。中にはツイッターで政治的発言をしたキャラもいて騒動も。ブームの変化と実情をとらえた『ゆるキャラ論』(犬山秋彦・杉元政光著、ボイジャー)が日経新聞に載った。【2013年6月18日(日)の各紙からI】

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ネットに流れて人気沸騰


『ゆるキャラ論』(犬山秋彦・杉元政光著、ボイジャー)

   丸っこい顔に愛嬌ある表情でゆっくり動いて、ほんわかムード。起源をたどれば江戸中期の「福助人形」あたりまでいくのだが、近年のブームは実のところIT革命の産物。地域新興のイベントに登場した着ぐるみ姿が携帯・スマホで撮られネット上に流されて、人気沸騰した。子供だましどころか、若者にも大人にも受け入れられた。

   地域活性化のシンボルだったはずが「近頃は、かわいいキャラクターは何でもゆるキャラと呼ばれてしまう」と、日経の評者・奥野卓司さん。せちがらい世の中だからねーといった分析は誰でもできるが、本のサブタイトルは「ゆるくないゆるキャラの実態」。「ひこにゃん」が成功したあたりから、なにやら様相が変わってきたという。

   それまでは自治体職員や商店街の有志が作ってきた。街になんとか活気をというのが原点だった。ところが「これで客が集まる」となると、各地の自治体や企業が広告代理店やデザイン会社に制作を依頼し始めた。広告やキャンペーンのプロたちが手がつけつつある。かくて、あちこちで、本来の郷土愛のあるもの・ないもの、ともに増殖中という。

「侵略戦争」ツートで炎上も

   本はさまざまな騒動にも触れている。2011年8月、北海道長万部町の「まんべくん」がNHK番組を見て「日本の侵略戦争が全てのはじまりです」とツイートし、反響でネットが炎上、町長がホームページ上で謝る事態になった。また、よく似たキャラクターが作られて自治体との間で訴訟沙汰に発展した事例もある。

   『くまモンの秘密』(熊本県庁チームくまモン著、幻冬舎新書)も日経の同じ欄に。キャラクターに無縁だった地方公務員集団が制作と運営を通じて行政のわくを超えた記録だ。

   郷土愛と癒しから生まれたブームはどこへいくのか。一種の文化として発展するだろうか、それともビジネスの手段か。確かにゆるくはない実態、混沌としている。

(ジャーナリスト 高橋俊一)

   J-CASTニュースの書籍サイト「BOOKウォッチ」でも記事を公開中。

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