【書評ウォッチ】新しい働き方「ノマド」に賛否 「自宅で働けばいいだろ?」の声も

   現代日本人の働き方を問う本が、ネット上でちょっとした議論になりつつある。『ノマド化する時代』(大石哲之著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)には、従来型の国内中心のサラリーマン暮らしをぶっとばすような話がいっぱいだ。ノマドを直訳すれば遊牧民。国という枠組みにしがみついていないで世界を自己責任で生きていけとの意見に、賛否両論が分かれる。「もう企業も個人も変わるんだよ」「いや普通の人が日本で暮らし働くことは変わるもんか」。どう反応したらいいのか。【2013年5月19日(日)の各紙からI】

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「海外に行けばいいのか」の反論も


『ノマド化する時代』(大石哲之著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)

   「ノマド」の現代的解釈は、フリーランスの仕事人といった意味か。ただ、この本は「近代国家に代わってグローバル企業・個人が主役に」なることを前提に、組織や個人が世界中にちらばっていくと考える。「登記はケイマン諸島、経営陣は香港在住、工場は中国とベトナム」といった例を、朝日新聞読書面で評者の清野由美さんがあげている。

   著者のサイトには「国や、会社におんぶにだっこの時代は終わりを告げています」「世界の海原に放り出される時代がきます」とある。どこに所属しているかなどの価値観は、もはや重要ではない。個人は「放浪者として<ノマド>にならざるを得ない」というのだ。

   こういう時代に「あなたは何ができるか」と、本は問いかける。シンガポールで活躍するコンサルタントや内定ゼロからインドネシアに就職した若者を紹介、これからは会社も人も「最適地」を求めて動くと強調する。

   そこでの生き方としては「英語を学ぶ」「海外を見る・働く」「専門性を身につける」など。「処方箋がしっかりと描かれた一冊」と共感の声もネット上に。

   一方で、反論するサイトも。「シンガポールに行けばノマドなのか」とストレートに切り返すあたりには現実的な説得力が。先駆者は常に憧れと批判の対象になるが、グローバル化・さあ個人の力で世界にという図式は、どうも単純すぎるかもしれない。

「ノマド論争」の問題提起

   世界がIT革命から本当にグローバル化するのなら、わざわざ遠い異国に行かなくても「自宅で働けばいいだろ?」と言えば、確かにそうだ。正解はどちらか、審判はいない。

   日本の企業社会が硬直しているうえに非正規社員ばかりを増やし続けていては「もう頼っていられない」と思う人が出るのは当然だ。そこに「ノマド論争」が巻き起こる。

   国内と海外、どこで生きるにしても自分しか頼れないとすれば、働き方の議論は誰にとっても必要になってくる。その意味で、仕事について鋭い問題提起の本だ。「ノマドが言われる時代」だからこそ、個人の生き方と現代社会のあり方を見きわめなければならない。

(ジャーナリスト 高橋俊一)

   J-CASTニュースの書籍サイト「BOOKウォッチ」でも記事を公開中。

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