【書評ウォッチ】部活の体罰、根性論を批判 元巨人・桑田の科学的指導法
体罰も非科学的な指導もいらないと、野球を新しい角度から考える動きが目立ってきた。科学や学問として、あるいは経営の側面から調べて分析する。
元巨人のエース桑田真澄さんが大学院でスポーツ科学を学び、恩師の平田竹男教授といっしょに『新・野球を学問する』(新潮文庫)を書き、部活に伝統的な根性論を批判しながら日本野球の勝ち残り策を提言する。アメリカでは弱小球団を変身させた実話の一冊が話題になった。「プロ野球ビジネスの未来」と題してスポーツ評論家の玉木正之さんが日経新聞でまとめている。【2013年5月12日(日)の各紙からI】
スポーツビジネスを扱った本格書
『新・野球を学問する』(新潮文庫)
桑田さんは大リーグを経て引退後、早稲田大学大学院に進んだ。平田さんは通産省を経てハーバード大学で学んだ工学博士。日本サッカー協会の常務理事も務め、なでしこジャパンの生みの親ともいわれる。こんな異色の師弟が対話してできたのがこの本だ。
スポーツ界にはびこる体罰、いじめ、根性論の「悪しき伝統」を検証。今の野球界に「誰がリーダーシップを取り、どんなビジョンを持っているのか」と問いかける。イチロー、松井、松坂らへの熱い思いも。スポーツビジネスの最新情勢も盛られている。
そのスポーツビジネスを扱った本格書としては『マネー・ボール[完全版]』(マイケル・ルイス著、ハヤカワ・ノンフィクション文庫)がある。
阪神タイガースの強化を経営面からも
アスレチックスのゼネラルマネージャーとして革命的な成果をあげたビリー・ビーン氏の記録。ある退役軍人がさまざまなデータを再分析した「セイバーメトリクス」(測定規準)の手法を活用して、ヤンキースの3分の1の選手年俸で同等の成績をあげた。打率・打点より出塁率・長打率……日本のプロ野球にも影響を与え、ロッテや日本ハムなどがチーム作りの参考にしたというスポーツ本の古典だ。
『本当は強い阪神タイガース』(鳥越規央著、ちくま新書)もおもしろい。「セイバーメトリクスを用いれば阪神は必ず勝てる」などと猛虎復活の戦略分析もたっぷりあるが、経営力の問題をとらえた面を玉木さんは評価している。
「野球は夢と同時に、成長戦略の一翼を担う巨大なスポーツビジネスでもあるはずで、既にメジャーはそれを高度に実践しているのだ」と玉木さん。この言葉に説得力がある。
(ジャーナリスト 高橋俊一)
J-CASTニュースの書籍サイト「BOOKウォッチ」でも記事を公開中。