霞ヶ関官僚が読む本
くまモンも応援する「改革への熱い思い」 自治体職員が挑んだ「改善事例」の数々
地域振興は、日本における大きな課題である。民間の力の重要性はいうまでもないが、それが乏しい地方では、優秀な人材が集積し、地域経済の中で抜きんでた存在である県庁、市役所職員の働きが重要だ。新たな変化に対し、「石橋を叩いて壊れるまで叩く」と揶揄されるぐらいリスクを取らず、できない理由を延々とあげ、それを無視する性癖を意識的に乗り越え、民間人のように「YES(できる)」から仕事に入れるかが、核心の1つだ。
堀北真希さんなど出演の映画で話題のベストセラー『県庁おもてなし課』(有川浩著 角川文庫 2013年)は、高知県を舞台に県庁職員が慣れない「集客」というテーマに悪戦苦闘する素敵なお話である。テーマパーク再建に挑む市役所職員が主人公の『メリーゴーランド』(荻原浩著 新潮文庫 2006年)も忘れ難い秀作だ。県庁職員と民間の異文化接触の悲喜劇を描いた『県庁の星』(桂望実著 幻冬舎文庫 2008年)もある。
「貝」の行政と、「熱い思い」もった行政職員
『地方自治体業務改善』
実話では、ゆるキャラブームの先頭を行く『くまモンの秘密~地方公務員集団が起こしたサプライズ』(熊本県庁チームくまモン著 幻冬舎新書 2013年)や、恐竜ビジネスを意欲的に仕掛ける福井県観光営業部の活動を学問的にも分析・検討した『行政ビジネス』(稲継裕昭・山田賢一著 東洋経済新報社 2011年)は、とても刺激的で面白く、元気も出る。
『コミュニティ・デザインの時代~自分たちで「まち」をつくる』(山崎亮著 中公新書2012年)は、地域の今後の豊かな可能性を模索する快作だ。氏は、「行政職員との付き合い方」という段を設け、「行政は『貝』である」とし、批判するとすぐに殻に閉じこもると喝破する。また、大過なく過ごすことは評価されるが、熱くやっても必ずしも評価されることはないという職場で、まちづくりを成功させるために、熱い思いをもった行政職員の存在の希少性・重要性を指摘し、その「奇跡的な」職員への応援・協調を強く勧めている。
「優れた実践を共有」する事例発表会も
熱い思いをもった職員側からの自発的な動きもある。その1つが、3月(2013年)にさいたま市で開催された第7回全国都市改善改革実践事例発表会に代表される自治体職員の業務改善運動だ。「自治体職員の一人ひとりが、明るく・元気に・前向きに仕事に取り組み、住民から感謝されるとしたら、県庁・市役所・役場ほど素晴らしい職場はない。自治体職員の一人ひとりが、互いに尊敬の念をもって相手の長所を賞賛し、優れた実践を共有することで役所の改革が展開されたら、知事・市長・町村長ほど素晴らしい仕事はない」(石原俊彦関西学院大学教授)という自治体職員有志の強い思いが、開催都市の首長を動かし、2007年2月の山形市を皮切りに毎年場所をかえて全国各地で開催されてきた。
この関係者が結集し、『地方自治体業務改善』(石原俊彦編著 関西学院大学出版会 2012年)という熱い本もつくられた。表紙は、三重県の行政改革で有名なNEWS ZEROメイン・キャスター村尾信尚氏の筆になる「あきらめない。あきらめない。そして、あきらめない。」の寄せ書きだ。氏は『役所は変わる。もしあなたが望むなら』(淡交社 2001年)や『「行政」を変える!』(講談社新書2004年)を著し、市民起点の自治体改革を提唱した。
来年3月には、第8回目になる全国大会が福岡市で開催されることが決まっている。2000年当時には全国自治体に鳴り響き、この大会開催のきっかけともなった、現場発で遊び心も兼ね備えた業務改善運動(DNA運動)の発祥の地での初開催が今から楽しみだ。
経済官庁B(課長級 出向中)AK
J-CASTニュースの書籍サイト「BOOKウォッチ」でも記事を公開中。