【書評ウォッチ】人口3500人の過疎地を絵本で町おこし 年60万人のファン訪れる
北海道・旭川から北へ50キロ、剣淵町という小さな町にまつわる絵本と映画が近く公開される。『クロコダイルとイルカ』(ドリアン助川原作、あべ弘士絵、販売元メディアパル)という絵本で、映画「じんじん」の中で主人公と娘の長い空白を埋める役割を果たす。
「絵本による町おこし」に取り組んで四半世紀、ユニークな文学賞や原画収蔵施設などをととのえた人口3500人の町に今、年60万人のファンらが訪れる。過疎地と絵本と映画の幸福な出会いを読売新聞が特別面で紹介した。【2013年3月31日(日)の各紙からII】
絵本の全戸回覧や読み聞かせの会をつづけて
『クロコダイルとイルカ』(ドリアン助川原作、あべ弘士絵、販売元メディアパル)
明治後期に屯田兵によって開拓された剣淵町。稲作が盛んで、自動車メーカー・マツダの試験場もある。しかし、昭和30年代に約9000人いた人口が今年2月には3534人。町おこしを模索した有志たちが絵本の魅力を発信することを思いついた。
絵本の全戸回覧や読み聞かせの会を続ける熱意に町も動いた。当時の竹下内閣が市町村に1億円ずつ配った「ふるさと創生資金」で1991年、内外の絵本原画を集める絵本の館がオープン。前年度に出版された絵本を対象に「絵本の里大賞」もスタートした。町の農産物3年分を副賞に、今回で22回目になる。
映画は、絵本の館で読み聞かせに吸い寄せられる子供たちの熱中ぶりを見て驚いた俳優・大地康雄さんが3年前に町に協力を求めて実現した。離婚で別れ別れになった一人娘と剣淵町で再会する大道芸人の話だ。娘に聞かせるために創作した物語が二人をつなげてくれる。ロケには町民200人もエキストラとして出演した。
今年3月の町民向け上映会では「スクリーンいっぱいに広がる古里の美しい風景にじっと見入り、涙ぐむ姿も目立った」と、読売紙面で筆者の和田浩二さんが報告している。
地熱大国ニッポンで開発が進まないのはなぜ?
『地熱が日本を救う』(真山仁著、角川oneテーマ21)
ほかには、『地熱が日本を救う』(真山仁著、角川oneテーマ21)がおもしろい。デビュー作の小説『ハゲタカ』で知られた作家が、開発が進まずにきた地熱発電の問題点をつく。実は日本、地熱大国のはずなのに……。朝日新聞の新書コーナーに。
世界第3位の資源と世界最高の技術力。政治と制度に阻まれる地熱開発の現状はもったいない限り。「太陽光よりもポテンシャルが高い」「脱原発の最も現実的なエネルギー」という見方もある。著者も「日本再生の切り札」と力説する。電力料金値上げラッシュの情勢に、本気で、それも急いで考えてみる価値がありそうだ。
(ジャーナリスト 高橋俊一)
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