【書評ウォッチ】中学・高校で広がる「教室内カースト」 教師や生徒が語る生々しい実態
学校でいま何が起きているかの問題は、隠れている実態が時々思い出したように明らかになる。『教室内カースト』(鈴木翔著、本田由紀解説、光文社新書)が、学校現場の問題を正面から問いただした。マンガや小説では描かれてきた不条理な「身分制」を、研究書として正面からついた。こんなことを、これ以上放置してはいけない。
朝日新聞がとり上げたのだが、この日の同紙一面と読書面とを読み比べると、なんとも凄いギャップ・コントラストに驚くしかない。立派な教師の立派な行いを推奨するような一面記事と、書評の本に浮かび出た教師の言動。教育重視を掲げる新聞がまず提起すべきはどちらだろうか。【2013年3月17日(日)の各紙からII】
教師にとっては「別の様相」だって?
『教室内カースト』(鈴木翔著、本田由紀解説、光文社新書)
「カースト」とは、上下に分かれる身分差別制度だ。「現代の教室空間には歴然たるカーストがある」と、朝日の評者・精神科医の斎藤環さん。
上位グループは教室を牛耳り、それが権利であるかのようにはしゃぎ回る。下位グループは小さくなって声を上げることもあまりない。この状態「スクールカースト」は主に中学、高校のクラス内で発生する。小学校に萌芽が見られるともいう。まさにマンガのような話だが、いま全国で広くはびこり、教育効果を阻害し、「いじめ」や「ひきこもり」につながっていく。著者は教師や生徒にインタビューし、生々しい実態を聞き出した。
しかし、教師にとっては「別の様相に見えていることも明らかに」(出版社の紹介サイト)という点が、評者も言うとおり衝撃的だ。
立派な先生を取材するのもいいけれど
下位グループの生徒のことを「ついていけば済むから楽かな。言われるままにやっていればいいから」「100%将来使えない……部活もやっていないオタクで」
こんなことを言う教師もいたそうだ。まるで他人事。生徒の叫びを聞こうともしない。カーストがある方がクラス運営に好都合なのか。本の問題提起は、市民感覚とはどうにもずれた教師たちをも映し出す。一部にすぎないと笑ってすませていいはずがない。
同じ日の朝日新聞一面と二面に「教育 あしたへ 先生の挑戦」の連載が始まった。「経験を積みたい」と企業に勤めてから教師になった先生たちの熱心な活動を伝えている。
これも重要で、もちろん事実だろう。ただ、こんな立派な先生方と、カーストを見て見ぬふりするような教師と、どちらが多いか、実状に近いか。生徒と親たちにとってより深刻で一刻も早く改善してほしい問題が、全国各地にあるとしたら……。朝日取材班に限らない。取材しやすい方ばかりをとり上げていては、教育現場の平均像は隠れるばかりだ。
(ジャーナリスト 高橋俊一)
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