【書評ウォッチ】WBCから見える裏事情「野球移民」 バケーションや自分探しの人も
ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)のもう一つの側面を活写した『ベースボール労働移民』(石原豊一著、河出ブックス)が東京新聞に。ベスト4まで勝ち上がった日本以外の3チームは、主力が中米・カリブ出身のプレーヤーで、大半は米大リーグかその傘下にいる。アメリカ代表をも破った彼らの姿からは世界の野球、あるいは世界それ自体の一端が見えてくる。17カ国298のフィールドを調べたという本は、「出稼ぎ」「バケーション」「自分探し」といった選手個々の生き方も浮き彫りにした。【2013年3月17日(日)の各紙からI】
そこは巨大資本による労働市場
『ベースボール労働移民』(石原豊一著、河出ブックス)
「今の野球界はMLB(メジャーリーグ)が頂点に君臨し、世界各地から有望選手を獲得する図式が出来ている」と、評者の澤宮優さんが解説している。著者は母国から海を渡った野球選手を「労働移民」としてとらえ、MLBを中心とした巨大資本による労働市場を見すえる。この本がおもしろいのは、米国内の野球を超えてドミニカ、メキシコ、イスラエル、ジンバブエなどで選手を取材した点だろう。
例えば、日本からは「えっ野球をやっているの」と思われても不思議はないイスラエルの選手たちは四つのタイプに分類できるらしい。
(1)元中日のネルソン投手のようにはい上がるためにプレーする「プロスペクト」型
(2)母国よりはまだ給料が良いからという「野球労働者」タイプ
(3)米国人弁護士のように夏休みに遊びに来た「バケーション」タイプ
(4)日本の大学を出て就職せずに海外を渡り歩く若者もいたそうで、これは「自分探し」型
資本主義化したグローバル産業
プロスペクト型なら誰にも想像できそうだが、あとの3タイプには改めてうなずかされる。野球は日米韓や中米カリブぐらいの限定された範囲のスポーツというイメージがまだ強い。グローバル産業と化した実態は奥が深く、広範な人のありように関わっているのだと本は教えてくれる。メジャーや日本のプロ野球だけではわからない事情がWBCの熱戦に、実はついて回っていた。
ほかには、『I LOVE TRAIN アジア・レイル・ライフ』(米屋こうじ著、ころから)が日経新聞に紹介された。鉄道写真家が20年にわたりインド、タイ、ミャンマー、ベトナム、マレーシアなどを巡って撮影した人と列車。「ゆったりした風情がある」と、無署名の記事が評価している。
(ジャーナリスト 高橋俊一)
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