【書評ウォッチ】福島第一原発「決死隊」の記録 突入時に見た「真実」語る
ちょうど2年たった東日本大震災の、あふれる関連本の中で個性的な3冊が「3・11」直前の紙面に載った。『死の淵を見た男』(門田隆将著、PHP研究所)は、福島第一原発壊滅の現場にとどまった吉田昌郎所長と所員たち「決死隊」の死闘を見つめたドキュメント。政官民のもっぱら上層部に取材しただけの本にはない修羅場の記録だ。
未曽有の大災害は、国と人々のあり方をも問う。あの日に何があり、これから何をするべきか、未解明部分が多く、全容はまだ定まらない。それほどの危機に臨んだ人間の姿とは。生死ギリギリの緊張感が今につながっていることを、この本は教えてくれる。【2013年3月10日(日)の各紙からI】
事故調報告書では釈然としなかった部分
『死の淵を見た男』(門田隆将著、PHP研究所)
「ミクロな現場にこだわった」と、読売新聞で評者の星野博美さん。著者自身も最悪の事態の中で闘った人たちの「姿」をどうしても知りたかったという(まえがきから)。
取材対象は例えば、放射能汚染された原子炉建屋に何度も突入して弁を開けようとした人たち。最も危険な現場で何があったかを現場を中心に聞きとった。民間、国会、政府、東電それぞれの事故調査委員会の報告書が出そろっても、いまいち釈然としなかった部分だ。なにしろ「現場は真っ暗で調べられません」なんていう東電サイドのごまかしにコロリとひっかかる調査委員会もあったらしい。それだけ、この本の意義は大きい。
「戦時中の日本とまるで同じでは」
マクロ的に全体像にせまった『カウントダウン・メルトダウン』(上下二巻、船橋洋一著、文芸春秋)が朝日と読売に。民間事故調をとりまとめた著者が日米の要人300人余に取材した。米軍横須賀基地から空母が離脱、首都被害を想定した首相談話の用意……現場とはちがったレベルの動きにも記録と議論の価値がある。
政府の混乱、責任逃れとしか思えない本社の対応が現場や市町村長たちの危機感を増幅した。「まるで太平洋戦争指導部の内幕に通じている」(朝日の評者・保阪正康さん)、「戦時中の日本とまるで同じではないか」(読売の評者・星野さん)と、誰もが思う。
マスコミの中で一貫して反原発の視点から報道してきた東京新聞特報面の記事をまとめたのが『非原発』(一葉社)だ。「国民のマジョリティーの声をきちんと反映した」と、東京新聞で評者の文芸評論家・川村湊さんが薦める。賛否はあるだろうが、ユニークな紙面にはちがいない。書評の「ユーモアの感覚が足りない」は余分で、これ自体が笑えるトンチンカンな記述だ。ユーモラスにやることではない。
(ジャーナリスト 高橋俊一)
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