【書評ウォッチ】「走れメロス」はラストがおもしろい 毒舌評論家が「うしろ読み」
古今東西の有名小説・文献132点を書き出しより最後のエンディングを重点に読み解く『名作うしろ読み』(中央公論社)がおもしろい。毎日新聞がとりあげた。
著者の斎藤美奈子さんといえば、あたりさわりのない礼賛型の批評がとかく横行する中で皮肉と毒舌で知られた文芸評論家。「ネタバレ」といって小説や絵本の結末をかくす傾向にもズバリ一撃を加えた。角度をかえて眺めれば、べつの風景が結構見えてくる。
【2013年2月10日(日)の各紙からII】思わぬ本質をあぶり出す
『名作うしろ読み』(斎藤美奈子、中央公論社)
「斎藤美奈子の文芸批評は一貫して権威性に対する懐疑と挑発に主軸が置かれている」と毎日の評者・比較文学の張競さんが言うとおりなのだが、要所を的確につくから支持者が多い。この本のもとになったコラムも読売新聞連載中から反響を呼んだ。
中味自体もおもしろい。たいていの名作は名前だけを知っていても読んだことのない人がほとんどで、書き出しだけなら知っている人がこれに次ぐ。それを、学者風の小難しい文学論ではなく、ひっくり返してうしろから読んでみるという発想で特徴や作者の意図をあぶりだした。ラストシーンに本質あり。多くの場合、思わぬ本質が。
メロスは激怒で始まり真っ裸で終わる
たとえば漱石の『坊っちゃん』。なぜ主人公は「坊っちゃん」なのか。うしろから読むと、最後にばあやの清がそう呼んで死んでいく。で、著者はこの名作の「痛快な勧善懲悪というイメージ」を修正。「清への長い手紙」か「追悼だったのではないか」と解釈する。
愉快なのは太宰の『走れメロス』だ。教科書の定番で「メロスは激怒した」の書き出しを覚えている人もいるだろう。そのラスト。親友のために走り続けて王様を改心させた大団円だが、メロスは(いろいろある経過は省略。まあ、原作を読んでください)最後は真っ裸。少女にマントをさし出されて「勇者は、ひどく赤面」して小説は終わる。
かつては裸部分をカットした教科書もあったとか。シンプルな友情物語として中学生に教えたわけか。ばかげた操作をしたものだが、著者・斎藤さんはそこをつく。
メロスが赤面したのは単に裸だったからか、それとも自己陶酔に近い行為そのものに対して赤くなったためか、と著者は問いかける。「最後、メロスはコドモからオトナに変わるのだ」「ただの感動小説のわけないじゃない」と言われると、ついうなずいてしまう。たしかに、これはありきたりの批評ではない。
(ジャーナリスト 高橋俊一)
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