【書評ウォッチ】一面飾る派遣切りや「寒風」 読書面の「経済学」は役に立つか
政権交代を意識したか、経済関係の紹介が眼につく。インフレ目標まで定めた安倍政権の超積極財政と超々低金利志向がどう出るか、関心が高まっている。物価急騰の不安に触れる本や、経済学そのものを問うタイトルもある。
同じ日の朝日新聞一面には派遣切りにあった若者の寝場所もまともにない状況が。日経一面でも就職氷河期から10年たつ30歳代の今を「寒風」とした企画記事が載る。この現状を打破する役に経済学はたつのだろうか。【2013年1月13日(日)の各紙からI】
まるで「胃腸に優しい暴飲暴食」
『2013年、インフレ到来』(平山賢一著、朝日新聞出版)
『2013年、インフレ到来』(平山賢一著、朝日新聞出版)は、著名なファンドマネージャーがインフレと金利の関係をやさしく解説する。両者はシーソーのように「行ったりきたりしながら調整し合う」という。
金利を低く抑えてきた日本ならではの貿易黒字や国債に資金を集める仕組みがどうも危ない。今後の金利は海外の動きに連動しやすくなると著者は注意喚起。「歴史的事例を交えたユニークな視点が本書の売り」と、朝日新聞で加藤出さんが薦めている。
物価も賃金も上がらないデフレ対策にはまず経済成長をという考え方に、『新・国富論』(浜矩子著、文春新書)は疑問を投げかける。
「成長によって財政再建を」とは聞こえはいいが、「胃腸に優しい暴飲暴食」のようで支持できないというのだ。「痛快な本だ」と経済思想史の根井雅弘さんが東京新聞で。
経済学を「知の集積」ととらえたのは、日経の読書面トップ記事。『飯田のミクロ』(飯田泰之著、光文社新書)や『経済学の思考法』(小島寛之著、講談社現代新書)が基本の解説書だと同紙の前田裕之さん。それにしても本のタイトルに著者名とは、どういう神経だ?
この分野では古典ともいえる『経済学の考え方』(宇沢弘文著、岩波新書)は、ミクロ経済学の前提条件や仮定を批判し、制度や社会を反映した理論の必要を説く。
解説? 言いわけ? 経済学は未回答
今やわがもの顔の市場経済に懐疑的な姿勢を見せるのが『経済学に何ができるか』(猪木武徳著、中公新書)で、日経のほか朝日もとりあげた。なぜ適切な処方せんを示せないのか。経済学は「文法」みたいなもので、知ることは必要だが、それだけでは役に立たないという。中央銀行の独立論にも触れている。原真人さんの書評がわかりやすい。
どの本もそれぞれに経済という怪物にまじめに取り組んでいる。ただ、朝日一面記事のような現実を考えると、立派な権威や泰斗の著者であればあるほど虚しく響いてしまう。経済学とは社会の解説か言いわけか、どこまで役に立つかの回答にはまだなっていない。
(ジャーナリスト 高橋俊一)
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