【書評ウォッチ】ウェブで政治を 新しい流れ縛る古い制約
インターネットが選挙をどこまで左右するかが、今回総選挙の、間違いなく焦点の一つだ。この新しいツールを通じて政治に影響し始めた人々をフォローした『ウェブで政治を動かす!』(津田大介著、朝日新書)が朝日新聞に。
ネットで政策を知り、議論に参加する流れ。一方には公示後は候補者ウェブサイトの更新を許さない制約がある。現状は「入り口にすぎない」と評者のいとうせいこうさん。書名どおりの展望が開けるかは、これからだ。【2012年12月2日(日)の各紙からII】
さまざまな意見のやり取りが実現
『ウェブで政治を動かす!』(津田大介著、朝日新書)
政治はずっと永田町のボス的政治家とその周辺にうごめく魑魅魍魎みたいな利害関係者のものだった。そこからひねり出される政策を国民が知った時には実質的に決まっていて、議論に参加などできない相談だった。それが、ネットの普及で政策案の段階から意見を幅広く発信することも不可能でなくなってきた。
この本は人々が「討議に参加し、常に政治を監視するような社会の到来を後押ししようとする」と評者はいう。都の青少年条例改正案がツイッターを通して議論を呼んでいったん否決されたことなど、実例もある。
有権者に見解をネットで開陳する政治家も増えた。そこに賛否さまざまな意見のやり取りが実現する。事業仕分けの生配信には、視聴者から反応が刻々と打ち込まれた。
深まり、せこくなるネットの闇
「ネット選挙を実現すべきだ」と著者は説く。選挙期間中こそ、メディアなどで指摘される諸問題に候補者が考え方や政策を示す機会だ。ネットなら費用もほとんどかからない。なのに、サイト更新をしばる公職選挙法の壁。「これは決定的に古い」と評者。「ウェブで動かす」ためには、制度の更新こそが必要だ。
この本とはちがう意味で、ウェブは選挙にすでに影響している。特定の党や候補者の演説予定に合わせた動員の呼びかけが流れ、会場や選挙カーをヤジ怒号がおしつつむ。こうした「プロの市民」を誰があやつっているのか。「ネットと政治」の怪しげな現実だ。
脱原発デモを呼びかけるブログに、一般市民を装って候補者の写真がちゃっかり入れられることもある。政治にかかわると、ネットの闇はいっそう深まり、せこくなる。
ほかには、『脱原発とデモ』(筑摩書房)を東京新聞が載せた。原発問題で街に出て意思表明した24人の言葉。瀬戸内寂聴、鎌田慧、柄谷行人さんらの顔ぶれだ。ここにもウェブよりは古いけれど、発信の有力な手段がある。
(ジャーナリスト 高橋俊一)
J-CASTニュースの新書籍サイト「BOOKウォッチ」でも記事を公開中。