【書評ウォッチ】現代の病・万引き あふれる商品の中をさまよう姿

   ありふれた光景や行為が世相を反映していることは、よくある。『万引きの文化史』(レイチェル・シュタイア著、太田出版)は、小さな犯罪から社会のありようを切りとろうとした一冊。その心理と病理を「決してなくならないのは、現代の病であるからだろうか」と、評者の著述家海野弘さんが日経新聞に。大量消費社会に根ざした問題は日米共通だ。

   一方、これも「社会を映した鏡」とはいっても、まったく対照的な、心温まる本が朝日新聞に。『新幹線お掃除の天使たち』(遠藤功著、あさ出版)には、清掃スタッフの活躍が世界に誇る日本文化として書かれている。【2012年11月4日(日)の各紙からI】

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「たくさんあるから、一つならいいか」だって!


『万引きの文化史』(レイチェル・シュタイア著、太田出版)

   万引きは、ケチといえばケチな犯罪。英語でショップリフティング。まさに店から品物を引っぱってくる。「たくさんあるから、一つならいいか、といった心理だろうか」と海野さん。商品が大量生産・大量消費・大量廃棄される今どきの犯罪と、本はとらえている。

   「女性に多い」「一種の病気」との説がある。「本の万引きは日用品の万引きとはちがう」といわれることも。また、この本にはないが、ホームセンターなどでは女性や若者というより30代から60代・大人の男女が主役だとの警察庁調べもあった。どの街にもありそうな違法行為の実態をさぐると、そこには「時代や社会を映す鏡」の一面が。

   不景気と不安の時代。米国での万引き増加をとり上げた本に、日本の現状がオーバーラップする。照らし合わせて読めば、評者がいう「あふれる商品の中をさまよう私たち」について考えさせられる。

ひっそり醸成されていた世界一の文化

   『新幹線お掃除の天使たち』とは、そろいのユニホームでテキパキと清掃作業をこなし、ときには乗客案内までする人たち。列車内の掃除をするだけだった「地味なJR子会社が、いかにして変身したのかを心温まるエピソードとともに分析している」と、評者の佐々木俊尚さんが拍手をおくる。

   フランスの国鉄総裁が「これを輸出して」と言ったとか。もはや「おもてなし業務」とよんでいいレベルだ。バブルのころにこれほどの接客文化はなかったそうで、その後の不況にも耐えながらひっそりと醸成されてきた。ただ、グローバル化や社会の階層化から「いつまで豊かな生活文化を維持できるのか」と心配するのは評者だけではないだろう。

   近ごろどうも冴えない国でいつの間にかしっかり育まれていた「世界一の現場力」。貴重な文化を守るために何をしたらいいのか、本が一人ひとりに問いかける。

(ジャーナリスト 高橋俊一)

   J-CASTニュースの新書籍サイト「BOOKウォッチ」でも記事を公開中。

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