霞ヶ関官僚が読む本
韓国経済「礼賛」に違和感 「脆さ」と「格差」直視を
最近、韓国や中国、ロシアなどの近隣諸国との関係が大きな問題になっている。一番近い隣国である韓国については、芸能関係はよく知られているが、経済など普段あまり意識することは少ない。『韓国経済の基礎知識』(百本和弘・李海昌編著 ジェトロ 2012年)が、最近までのデータを織り込んだ手ごろな書物だ。
アジアの中でも突出して輸出依存度が高いことが韓国の特徴だ。2010年で46%。日本は14.1%にすぎない。また、対日貿易は日本からの部品・素材輸入で赤字が続く。国際金融の観点からは、短期債務の大きさと対外純債権の少なさという脆さが指摘できる。なお、人口のほぼ半分(約2350万人)が首都圏に集中しているというのは驚きだ。
韓国ベストセラー本の「大統領の経済政策」批判
『韓国経済の基礎知識』
電機産業における、韓国企業の好調さと、日本企業の低迷のコントラストは、いまや経済ニュースの定番だ。韓国企業の強みは、迅速な意思決定、徹底した現地化、積極的なマーケティングなどだ。経団連会長の出身母体の住友化学が、昨(2011)年5月に、サムスンに納入するため、次世代タッチセンサーパネル製造設備を韓国拠点に設置する大規模投資を発表している。日本の電機産業を苦しめる韓国企業の躍進を、皮肉なことに日本企業の部品・素材が支えている。最新の状況は、日経ヴェリタス第233号「韓国経済 強さと脆さ」(8月26日~9月1日)に詳しい。
今後の課題としては、「急速に進展する少子高齢化」、「ミスマッチが根深い雇用」、「経済成長の中で不満が募る格差問題」があげられる。特に雇用・格差問題を解決できていないとして、与党・李明博大統領の新自由主義的経済政策を批判する野党民主統合党に近い経済学者が、ハジュン・チャン ケンブリッジ大学教授だ。彼の『世界経済を破綻させる23の嘘』(徳間書店 2010年)は、韓国でベストセラーとなった。開発経済に造詣の深い学者の堅実な著作だ。2008年に大統領の「国際諮問委員」に委嘱され、面談した竹中平蔵氏をはじめとして、韓国経済を礼賛する日本の経済関係者は多い。しかし、大多数の日本国民は、韓国みたいになりたいと願っているのだろうか?
竹島問題と「大胆な賭け」
この冬の大統領選をひかえ、漁業関係者を除き、日本人の関心をこれまであまり引かなかった竹島問題が突如クローズアップされた。国際法の碩学芹田健太郎氏の『日本の領土』(中公文庫 2010年)が冷静な議論の基礎になる法的な事実を整理した良書だ。芹田氏は、法的問題として竹島領有については、日本に強い正当性があるとする。しかし、これが韓国と日本の「歴史問題」として、韓国にとらえられていることから、今後の東アジアの緊迫する国際情勢を想定する中で、韓国と日本の棘(とげ)を抜くために、漁業問題の解決と抱き合わせでの竹島の譲渡または放棄を「大胆な賭け」として提言しているのが目を引く。
この問題には、声高に語る前に、まずは、良書をひもとき、自分の頭で地道に考えるしかない。「物曰うなら、声低く語れ!」(ミケランジェロ)は、現代日本を代表する人文主義者、故林達夫の座右の銘であった。その意味をかみしめながら、読書の秋の夜長に、本のページをめくることには大きな意義があると思う。
経済官庁B(課長級 出向中)AK
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