【書評ウォッチ】世界の99%を貧困にする仕掛けとは 米国の現状が日本に警告
貧富の格差が世界中で拡大している。リーマンショックによる大量失業と不景気にあえぐ人たちがいる一方で、巨額のボーナスを手にしながらさらに税逃れに走る資産家たちもいる。なぜこうなったのかをノーベル賞経済学者が解き明かした本が『世界の99%を貧困にする経済』(ジョセフ・E・スティグリッツ著、徳間書店)だ。グローバル化と情報革命が地球規模で労働力の安売りを呼び、富裕層に都合よい政治が不平等を加速させたと指弾する。主に米国について語るが、よく似た日本への警告でもある。朝日と日経がそれぞれ「1%の1%による1%のための政治を批判」「ゆがみを正すための経済改革を提案」と解説している。【2012年9月9日(日)の各紙からII】
「おこぼれ効果は機能しない」
『世界の99%を貧困にする経済』(ジョセフ・E・スティグリッツ著、徳間書店)
米国ではもっぱら1%が所得増の甘い汁を吸い、99%は生活水準をむしろ悪化させてきた。「われわれは99%だ」というウォール街占拠運動のスローガンもそこから出た。
いまや海外に仕事を大量発注できるので、国内の賃金を上げる必要はなくなった。「労働力の二極化」と、慶応大学の池尾和人さんが日経で評する。米国をはじめすべての先進諸国で進む現実。「このことをうまく利用して、上位1%の人々は自らの利益にかなった政治・経済ルールを作り上げた」ことを本は指摘する。
米国では市場さえ正しく機能すればうまくいくとの考えが根強い。富裕層の富がやがて下層へしたたることで全体が潤う「おこぼれ効果」論。著者は「それは機能しないと切り捨てる」と、朝日新聞の書評で原真人編集委員。
自由市場主義の限界を認める著者の処方せんは、政治改革と大胆な経済政策の変更。「現状を是正し、格差を縮小することは可能だというのが、本書の基本的な主張である」と池尾さんは読み解いている。
福祉と労働に光と影のオランダモデル
ほかに、格差拡大の反対をいく典型例としてオランダをとりあげた『反転する福祉国家』(水島治郎著、岩波書店)が毎日新聞に。「日本の福祉と労働のあり方を考えるための貴重なヒントを与えてくれる国」と、評者の中村達也さんがいう。
この国で石油危機後の経済停滞と失業に対処するためにできた合意がある。労働側は賃金抑制に応じ、使用者側は労働時間の短縮と雇用を保証する。政府は生活水準維持のために減税を実施。パートにもフルタイムと同等の権利を認める。一方では、移民・難民を排除する政策もとられた。レンブラントの絵のような光と影の「オランダモデル」だ。
(ジャーナリスト 高橋俊一)