【書評ウォッチ】「中流」は殺されるか 米国そして日本にも迫る問題
米大統領選挙が近づいてきた。数ある関連本の中で、米国社会の深層を考えた一冊として『誰が中流を殺すのか』(アリアナ・ハフィントン著、阪急コミュニケーションズ)が日経に。大統領選の焦点をあつかった読書案内の一端だが、日本にもあてはまりそうな分析だ。新興国とは正反対に中間層・中産階級の減退が進む現状。「中流」というすでに懐かしい言葉に、深刻な問題が潜んでいる。【2012年8月19日(日)の各紙からII】
「米国の第三世界化が進行」
『誰が中流を殺すのか』(アリアナ・ハフィントン著、阪急コミュニケーションズ)
「ミドルクラス」といわれる人々多数の存在が米国社会の屋台骨だった。そこに噴出する「分解の危機」を、評者の北海商科大・古矢旬教授が読み解く。金融経済の進展で富裕層がいっそう富裕化した半面、雇用、医療、福祉、教育などの政治システムが機能不全に。「ミドルクラスが没落した結果、米国の第三世界化が進行している」との受けとめ方に説得力がある。
この経済状況、とくに雇用問題がオバマ再選に最大の障害。政治権限の拡大と集中によるリベラルな改革よりは、権限の縮小と分散による自由放任を求める保守的社会運動が活発化したことを、評者は「謎の一つ」にあげる。
「民主党リベラル派対共和党保守派」というアメリカ政治の構図に依然「一定の有効性」を認めながら、階級や人種、ジェンダーなどの複雑な交錯に評者は注意をうながしている。既成の枠組みだけで予測できる政治世界はもうないというのだが、それだけに「中流」分解の危機へと向かう流れの強さがいっそう際立つ。
リベラル、保守を考える参考書には『私たちは〝99%〟だ』(『オキュパイ!ガゼット』編集部編、岩波書店)と、『ティーパーティ運動の研究』(久保文明ら編著、NTT出版)や『分裂するアメリカ』(渡辺将人著、幻冬舎新書)があげられている。
平凡なタイトルでも個性的な環境本
ほかに、『植物からの警告』(湯浅浩史著、ちくま新書)を東京新聞が紹介。書名は平凡だが、コアラの食べ物としてすっかり有名になったユーカリをキーに環境問題を考えた視点はわかりやすく、個性的だ。
水分の吸収力が強いユーカリは乾いた土地でもたくましく育つ。が、葉や幹から揮発性の油成分が出ていて、コアラ以外にはどうも歓迎されない。「その森を緑の砂漠と表現した著者の感性に納得する」と、評者の中野不二男さん。近年は白骨化したユーカリが見られ、土地の塩害が進むという。その関係と対策を考えた本。「好奇心のツボをうまくついてくる」「表現がうまい」と、評価は高い。
(ジャーナリスト 高橋俊一)