【書評ウォッチ】五輪・超巨大イベント議論を 問題提起紙面の体裁だが
【2012年7月29日(日)の各紙から】ロンドン五輪の熱戦が続いている。スポーツオタクもそうでない人も、日本選手の活躍に拍手する。それはいいのだが、誰もが同じ方向へうかれたつ時にこそ、ことの本質や実態をつく問題提起が貴重になる。そういう視点から五輪という超巨大イベントのありようを考えさせる関連本を朝日読書欄がトップ記事でとり上げた。ただし、はなはだ不完全。半端な紹介にとどまり、解説は消化不良に終わっている。一見議論を呼びかけるスタイルの紙面なのに、もったいない。
五輪を批判的に論じる力・オリンピック・リテラシー
『オリンピックのすべて』(ジム・パリー、ヴァシル・ギルギノフ著、大修館書店)
評者はスポーツ社会学の清水諭さん。五輪の目標を「人間の尊厳保持に重きを置く、平和な社会の推進」としたうえで、『オリンピックのすべて』(ジム・パリー、ヴァシル・ギルギノフ著、大修館書店)をすすめる。五輪を批判的に論じる力・オリンピック・リテラシーの習得をかかげ、五輪開催の諸条件、政治的介入、ドーピング、環境問題のほか映画についても述べた本だ。ビジネス化が進む経緯と現状を書いた一冊『オリンピックと商業主義』(小川勝著、集英社新書)にも触れている。
しかし、五輪の現状に正面から再検討の必要を突きつけた部分は限定的。内容も具体的な実態に踏み込まず、項目的な羅列に終わってしまった。書評の半分以上はロンドン五輪と東京五輪の歴史に費やされた。なのに、幻となった1940年東京オリンピックにはばかに詳しい。陸軍までふくめた確執をこと細かに語るスペースがあったら、五輪の理念と実状を知ることができる関連本をもう少し多彩に、深く、具体的に紹介できたろう。
なんともアンバランスな構成
開催都市再開発との関係を振り返りつつ将来論議をうながしたなどという受けとめ方ならいくらでもできるが、それにしても構成がなんともアンバランスだ。鋭角的な問題部分が不自然に少ない記述は、戦争の原因や責任論など現代史をさけて縄文・弥生ばかりを微に入り細に入り語り聞かせる中学・高校の日本史授業を思わせる。
ほかでは、五輪開催地のロンドンによせて、『英連邦』(小川浩之著、中公叢書)が読売に。旧植民地を中心にした不可解な絆。帝国支配からせっかく脱して独立した国々がなぜ?
著者は「家族の中での自立」と位置づける。繋がりを維持することが利益になると双方が考えたらしい。「そこに信頼が生まれる余地があった」と、評者の国際政治学者・細谷雄一さん。ただ、これで植民地や帝国主義が許されるわけではないだろう。この点にだけはしっかりと注意して読みたい。
(ジャーナリスト 高橋俊一)