ソニーとアップル、なぜ差が付いた? 両社知る前刀氏が語る「セルフイノベーション」とは

   ソニーとアップルの立ち位置の逆転は、エレクトロニクス分野の趨勢に思いをはせるのに象徴的なメルクマールだ。一昔前は故スティーブ・ジョブズをしてアップルの「目標」と言わしめたソニーだが、なぜ差が付いたのか。ソニーとアップルを渡り歩いた前刀禎明氏の著書『僕は、だれの真似もしない』(アスコム社、1470円)によると、日本の企業から「イノベーション」(革新)が失われてしまったからだという。

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「誰も見たことのない世界に飛ぶ」


『僕は、だれの真似もしない』

   気がつけばほとんど同じような製品同士の熾烈な価格競争に巻き込まれている日本企業。この状況を打破する「イノベーション」の根幹は、会社を構成する個人の「セルフ・イノベーション」(自己革新)にある。

   そこで前刀氏は、人が「誰も見たことのない世界に飛ぶ」ための「セルフ・イノベーション」を増やす原則として

1.五感で感じる
2.自分の頭で考える
3.自発的に行動する

の3点をあげ、それらの日々の「実践」の重要性を説く。知識を蓄積し、過去の正解例を真似するだけではいまやイノベーションは生まれないと説く。

「僕もあなたもスティーブ(ジョブズ)ではない」

   「人から言われたことをやり続ける。同じことを繰り返す。これらは、ほかにどんな報酬や名誉が与えられようと、僕には耐えられない」と語る前刀氏は、まさにこの「セルフ・イノベーション」思考で多くの人々の感動を仕掛けてきた。

   慶應義塾大学大学院を卒業後、ソニーに入社。ベイン・アンド・カンパニーなどを経てアップルのマーケティング担当バイス・プレジデントに就任し、「日本市場では売れない」と酷評されていたiPod mini(アイポッドミニ)を2004年の大ヒット商品へ押し上げた。現在は、自身が立ち上げ代表取締役社長をつとめるリアルディアで、感性・創造力・表現力を育むための教育・自主学習プログラムの開発と提供をおこなっている。

   アップルの面接の際に、ソニーの超薄型ラップトップ「バイオノート 505エクストリーム」を持ち込み、その有効性をスティーブ・ジョブズにプレゼンしたというエピソードは、その手のファンにとってはちょっとした「伝説」だ。

   そんな背景を持ち、「スティーブはすごい人でした」と率直に褒めながら、スティーブ・ジョブズの模倣を続ける世間に「でも、僕もあなたもスティーブではない」と釘をさす。背景には、「誰の真似もせず、自分にしかできない方法で人々を感動させる人が日本からどんどん出てきて欲しい」という前刀氏自身の願いがある。

   そのためか、「セルフ・イノベーション」を起こすための決意のありかたから、実践問題つきのトレーニングで感性を磨き、さらに変化を加速させるまでを、自身の経験も交え丁寧に紹介している。ビジネスマンだけでなく、学生などにも役立つ1冊と言えそうだ。

   2012年7月24日、刊行された。

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