【書評ウォッチ】80年生まれと全共闘世代 魅力的な著者2人
【2012年7月1日(日)の各紙から】本の魅力と著者の人物像は切り離せない。そう思わす記事が二つ。『ハーバード白熱日本史教室』(新潮選書)の北川智子さん。米国名門大学の「弱小学部」といわれた東アジア学部に新しい日本史講義を持ち込み、履修者を急増させた。学生投票による「ティーチング・アワード」を受賞した、1980年福岡県生まれの才媛だ。もう一人、『スズキさんの生活と意見』(新潮社)の鈴木正文さんは全共闘世代出の名物編集長。車やファッションから世相までに触れた雑誌コラムを一冊にまとめた。
ハーバード大で学生たちと真剣勝負
『ハーバード白熱日本史教室』
北川さんはカナダのブリティッシュ・コロンビア大や米プリンストン大で学び、2009年からハーバード大で教べんをとる。日本史の履修者を3年で16人から251人に増やしたことを日経が紹介している。その講義は「印象派歴史学」。女性の権力者や、京都のある百年間など「何か一つにフォーカスをあてる」のだそうだ。
本は、学生に地図やラジオ番組、映像などを作らせる体験型授業の様子を報告する。「ハーバードの学生は易しいだけの講義は評価しない。私の講義は課題が多くて学生は忙しい」とある。学生たちと真剣勝負だ。
ハーバード大での立場は、当初は「カレッジ・フェロー」で、この1年は「レクチャラー」に。1年ごとの契約という。もとは理系で、今年後半からは英国で数学史を研究する。目標は新しいタイプの歴史の「語り部」になることとか。国際的な舞台というと、ビジネス関係ばかりを考えがちだが、学術の、それも歴史研究の分野で活躍する魅力的な横顔がうかがえる。
車、ファッション、文化に鋭い筆
鈴木さんは、全共闘世代のその後を描いた矢作俊彦の傑作『スズキさんの休息と遍歴』のモデルで、34歳のときに雑誌「NAVI」の創刊に参加。「性能だけでなく、文化としての自動車をとらえた」と読売に。還暦を過ぎてもその筆は、幅広く、鋭い。
サッカー日本代表についてのスポーツ用品メーカーの広告にも及ぶ。「応援しなければ日本人らしくないとか、雰囲気に同調しなければいけないとか、そこに息苦しさを覚える個人がいるんじゃないか」という言葉を読売が紹介している。
誰もが同じ方向を向くことの危険に待ったをかける勇気。まっさきにマスコミがやるべきなのだが、スポーツにせよ原発にせよ、どうも怪しい。もうすぐ五輪もある。「応援しなければいけない」と強要するようなムードに一つ水さす人がいてもいい。
(ジャーナリスト 高橋俊一)