原発関連本も「朝日は革新」「読売は保守」 あまりにイメージ通りな2紙の選択
【2012年3月11日(日)の各紙から】
深刻な事態となって1年の原発問題で、朝日と読売が対照的なスタンスを見せている。世に出た本の紹介や評価を主とする読書欄のことだから、直接的な論調やニュースの解釈ではないが、「朝日は革新的」「読売は保守的」といった紋切り型のイメージにあまりにもピタリはまった選択が、こうまで露骨に出たのも珍しい。
朝日は「事故の実態と不毛なバトルに慄然」の内容
『メルトダウン』
朝日は4ページある読書欄の2、3ページを見開く形で、科学技術や原発関連の数冊をとり上げた。その多くが原発をめぐる問題の根深さを指摘する。
『メルトダウン』(大鹿靖明著、講談社、1680円)は、副題のとおり福島第一原発事故の「あのときに何が起こり、何がなされたのか」を追及したドキュメント。緊急炉心制御装置が作動するはずという安堵から一転の全交流電源喪失、さらに避難指示の遅れ。関係者の発言を克明に記録した。「官邸、経産省、東電、学者たちの狼狽ぶりと壮絶かつ不毛なバトル」と、評者の福岡伸一氏が慄然とさせられた読後感を語っている。
戦後日本で多様な展開を見せてきた反原発論の歴史をたどる必要性を説いたのが『反原発の思想史』(絓秀実著、筑摩選書、1890円)。元朝日記者の『震災と原発 国家の過ち』(外岡秀俊著、朝日新書、819円)も紹介。著者インタビューのコーナーでは「原発事故後の科学」を見すえた『科学と人間の不協和音』(角川oneテーマ21、760円)の池内了さんを登場させている。
読売書評は「圧倒的に犠牲者が少ない」見解を紹介
『「反原発」の不都合な真実』
読売は『「反原発」の不都合な真実』(藤沢数希著、新潮選書、700円)。外資系投資銀行勤務として紹介されている著者が、原発の「有効性」や「安全性」を示す資料を評者・池谷裕二氏が驚くほど躊躇なく並べた。「100ミリシーベルトの被曝で死ぬ確率は喫煙の30分の1」などという資料を示しながら、「原子力は火力や水力に比べて圧倒的に犠牲者が少ない」と結論づける。もちろん、これは著者の考えであり、読売の見解ではない。
それにしても、この書評、評者が昨年ツイッターで「今年も残すところあと10ヶ月」と流したとか、「自宅で一度も冷房を使わなかった」とか。読書欄の読者にとってはどうでもいいことだ。著名人のエッセイ欄と勘違いしているのかと疑わしい記述。もし評者が「著名人」であったとしても、ここでは活字の無駄でしかない。
(ジャーナリスト 高橋俊一)