巨大津波で壊れない建物はない 建築家の関心「ハード」から「ソフト」へ
【2012年3月4日(日)の各紙から】
東日本大震災の「3・11」が近づいて、災害や震災関連本を各紙ともとり上げている。日経が建築家の視点から「震災後の住宅と地域社会」を考えているのがおもしろい。建築物と都市が破壊されたときから、建築家はさまざまな活動を開始していて、そのいくつかが出版物としてまとまっている。
「壊れない建築は難しい」 関心はソフト面へ
『日本人はどう住まうべきか?』
建築学会や建築家協会がシンポジウムを開き、仙台と海外約20カ所を巡回する「建築家はどう対応したか」展なども進行中だ。出版された例では『3・11後の建築と社会デザイン』(三浦展・藤村龍全編著、平凡社新書)がある。ここに収録されたシンポジウムで「一住宅=一家族」のモデルを批判する意見が出た点に日経の評者・五十嵐太郎氏は注目する。
東日本大震災は被災地限定の問題ではなく、「われわれはどう住まうのかといった根本的なテーマにも関わってくる」と、五十嵐氏はいう。その面から紹介するのが、養老孟司と隈研吾の共著『日本人はどう住まうべきか?』(日経BP社)。そこには「固定されたひとつの土地に縛られない生き方が大事」との考え方がある。
震災後に起きた「移住」の深刻な問題。このテーマを「3・11」以前から研究したのが牧紀男著『災害の住宅誌』(鹿島出版会)だ。著者は災害のたびに人が移動してきた世界各地の事例から、持ち家システムにかわるモデルを求める。これが家の所有にこだわらず、不特定多数が交互に使える住宅のストックをもつ、柔軟な社会へとつながるかどうか。
これらを五十嵐氏は「巨大津波で壊れない建築は難しいことが明らかになった」として、建築家の関心がハードからソフトに向かっているのかもしれないと受けとめている。
「インフラ整備が歪められている」との懸念を指摘
『国土と日本人』
毎日は、『国土と日本人』(大石久和著、中公新書、882円)を、副題の「災害大国の生き方」そのままに、日本列島の自然条件を見つめ、さらに社会体制との関係を考える本として紹介した。
日本では「ストックとしての社会資本」が単に「公共事業」として片づけられ、インフラ整備が歪められていると著者は懸念する。同時に、幕末の安政年間に相次いだ大地震や風水害が藩幕体制の限界を国民に実感させ、「明治維新の背景」になったと推測。戦後の高度成長は、1959年の伊勢湾台風から95年の阪神淡路大震災までの空白期にこそ可能だったとも指摘している。
(ジャーナリスト 高橋俊一)