「消滅回避」は世代継承がすべて 限界集落みつめた「結論」とは
【2012年2月19日(日)の各紙から】
いま田舎に行ってみればわかる。お年寄りばかりで若者や子供が極端に少ない。日本の地方各地にひろがる現状。活力の減退、閑散とした商店街。今冬の大雪では「雪かきも十分にできない」悲鳴。この問題を扱った『限界集落の真実』(山下祐介著、ちくま新書、税込み924円)を日経と東京新聞がとりあげている。
「支えがあれば集落は残る」と著者
『限界集落の真実』
限界集落とは、65歳以上の高齢者が住民の半数を超え、共同生活が難しくなった集落のこと。遠からず消滅するとされる集落の現実はどうなのか、著者は全国をめぐって調べてきた。
昭和ひとけた生まれ中心の住民らに、集落を維持する意欲は強い。問題は、後を継ぐ世代がいないこと。集落が消滅するか否かは世代継承にかかると著者は見る。「地域だけの問題ではなく、少子化・子育て・雇用など日本全体が抱える問題にもつながります」という。
その対策。都市に住む家族らとのつながりを集落単位で再確認する「集落点検」を著者はあげる。積極的な交流と里帰りの取り組みだ。グローバル化をにらんだ効率重視論に対して、著者は「周りの支えがあれば、それほど大きなコストをかけずとも多くの集落は残っていく」と反論している。
著者の横顔紹介にプラスもう一つ鋭さを
日経は無署名の記事だが、東京新聞は「この本 この人」のコーナーで著者にインタビューし、東京の大学に転職する前に17年間、弘前の大学に勤め、青森県鰺ケ沢町や下北半島で学生たちと調査活動をしてきたことを紹介。「小さなコミュニティーは生きる安心を、世代や家族は生の循環を紡いでくれる」との言葉を3・11以降に必要な考え方として載せている。
まじめな研究者の横顔が垣間見えるが、著者の持論に基づく対策を鋭く突きつめるところまではもう一つ。単に著者と会ってきましたという範囲を出ていない。書評欄ゆえの引用は当たり前としても、その言葉が長々15行にもわたるのはやや冗漫だ。「この人」のタイトルをつける以上、もっと突っこんだやりとりを期待したかった。
ほかには朝日と日経の『紅茶スパイ』(サラ・ローズ著、築地誠子訳、原書房、税込み2520円)が面白い。エレガントな紅茶と毒々しいアヘン戦争のかかわり。茶の苗木と製法を中国からインドへ持ち去ろうとしたプラントハンターの物語だ。
(ジャーナリスト 高橋俊一)