「死ぬ前に何を食べたいか?」宇田川悟氏に語った美食家16人の答えとは
『最後の晩餐 死ぬまえに食べておきたいものは?』
古代ギリシャの哲学者ディオゲネスは、「汝が富者ならは、よろこばしきときに食べよ、汝が貧者ならば、食べられるときに食べておくべし」と言った。そして時は流れて現代、フランス食文化に詳しい作家の宇田川悟氏は、「死ぬまえに食べておきたいものは?」と"最後の晩餐(ばんさん)"を尋ねる。その相手は、練達の士である16人の美食家たちだ。
晶文社から2011年8月5日に発売された宇田川氏の新刊『最後の晩餐 死ぬまえに食べておきたいものは?』で選ばれた対談の相手には、島田雅彦、奥本大三郎、猪瀬直樹、荻野アンナ、南部靖之、磯村尚徳、小山薫堂、山本容子、西浦みどり、羽仁進、逢坂剛、岸朝子、田崎真也、辻芳樹、千住明、楠田枝里子と、そうそうたる顔ぶれが揃う。
また、それぞれの話が結構ディープなのだ。最終的には「鮒(ふな)ずし」(島田氏)、「三日煮込んだブフ・ア・ラ・モード」(磯村氏)、「カツカレー」(逢坂氏)、「唐揚げ」(千住氏)など、"最後の晩餐"を明かすのだが、そこへ至るまでに「メグレ警部」よろしく鋭く突っ込む宇田川氏の「尋問」に、みなが美食にひれ伏すに至る経緯や持論を「自白」する。それがまた、とても趣きがあり、勉強にもなる。
例えば、ほんの一部をかいつまむと、「日本人は居酒屋やガード下の飲み屋で軽い精神分析をやっているから分析医にかからなくてすむ」(島田氏)とか、「日本人のサービスは作業的には世界的に見ても高いレベルだが、目配り気配りとなると全員が優れているかは疑問」(田崎氏)、「小さいころから(マクロの赤身などの)うまいものを食べさせてもらっていたから、舌をごまかせない。今でも赤身は大好きで、トロとか見てもおいしそうとは思わないが、赤身を見ると反応する」(山本氏)、「子どものころから、毎日食べたものについて何か言ってみることが大切。子どもだから何でもいいから食えとか、子どもはうまいまずいもわからないとか、そういうことを言うからダメ」(羽仁氏)という具合だ。
ちなみに、宇田川氏の「最後の晩餐」は、悩んだ末に「フランス料理のフルコース」だった。
単行本、228ページ。定価1575円。