リアルから仮想化へと変遷 音楽産業はどこへ向かうのか(上)
ハッキリと言おう。CDなどのパッケージメディア販売を主としたこれまでの音楽産業の未来は、悲惨なことになるだろう、と。
産業構造を一変させたインターネットの登場
音楽産業と一口に言っても、種々のプロセス/システムがあり、他の産業と大して変わりはない。
そのプロセスとはまず、商品以前の段階である音楽情報の「音源制作」がある。これはミュージシャン、作詞家らの情報生産者の役目となっている。次が、音源情報の商品化だ。大量販売ができる音楽メディアとして制作するプロセスであり、これはレコード会社の役目だった。
また、商品の販売は全国のメディアショップが担っているし、販売された音楽情報の著作権などロイヤリティを管理する、音楽出版社なども存在している。こうした分業をそれぞれに担うカンパニーが存在し、音楽産業は成り立っていたわけだ。
ところが、インターネットを介しての音楽情報の売買が可能になり、産業の様相、構造が一変してしまった。
インターネットの登場で、音源をパッケージ(CD化)することなしに、ユーザーに届けることができるようになったため、音源の商品化を担うレコード会社と音楽メディアの流通・販売を担ってきたメディアショップの存在理由がどんどん希薄になっているのだ。
商品化のプロセスがデジタルに駆逐
「情報」は、ただあるだけでは何も生み出さず、情報を必要とする人と出会うことで、はじめて価値が生まれる。だから、レコード会社やCDショップには大きな存在理由があった。同じ理由で、両者を結ぶCMや情報を伝達するメディアもまた必要だった。
ひるがえって、インターネット社会では、たとえば動画共有サイト「YouTube」などで公開されていれば、それを必要とするユーザーに直接届けられる。情報と情報を欲するユーザーを結ぶプロセス/システムは将来も必要だが(詳しくは別稿で触れたい)、インターネットであれば、とりたてて音源をパッケージとする必要も、店舗でそれを販売する必要もない。リアルな広告宣伝(テレビのCM等)さえも要らないだろう。
端的に言えば、前述した従来のような音楽産業がなくなってしまうことにほかならない。別の視点から考えると、音楽産業の中でもアナログ的だった商品化=モノ化・販売というプロセスがデジタルに駆逐され、リアルから仮想化の道をたどっているとも言える。
この話、次回(下)に続きます。
加藤 普