【北京発】今や「スーパーカー」も当たり前 勢いづく北京の中古車市場
北京のドライバーは勇猛果敢だ。ほんの少しの隙間があれば交差点に進入し、バス、自家用車、バン、荷台を引いたバイクが団子状態になっていても誰も決して譲らず後退しない。中国の車にはバックギアがないのかと思ったほどだ。
そんな北京で外国人が運転するのはなかなか勇気が必要なのだが、ここ最近、あまりにもタクシーがつかまりにくいことに業を煮やした知人(米国人)が、ついに車(中古)を買うというので、中古車市場に同行した。
中古車市場にはポルシェ、ランボルギーニ、ロールスロイス
中国北部最大の中古車市場という「北京旧車市場」には、高級車専用の屋内市場の周りに屋外市場が広がり、二軒ほどの間口の仲介業者の店が何百件と軒を並べている。それぞれ店の前に2、3台の車を展示していて、扱う商品はこれだけなのかと不思議に思える。知人が訪れた店は、お世辞にも整理整頓されているとはいえず、経営者と思しき人物のほか、赤ん坊をあやす若い母親などもいて、家族経営の雰囲気だ。仲介手数料がどの程度なのかは不明だが、月に数台の販売でも生計が立つのかもしれない。
この市場の開設は1996年だという。個人輸入の特別な場合を除き中古車の輸入が禁止されている中国では、車の販売というと新車が中心だったはずだが、車を乗り換える人が増えてきて、中古車市場も活性化しているようだ。
知人が目をつけたのは2005年型の中国産Jeep(吉普)で、値段は6万5000元(約80万円)。その隣の同じ2005年型ジープは、日本製エンジンを搭載とのことで8万元とややお高い。日本人としては「日本製エンジンのほうが信頼性が高いのでは……」と小さな声で助言するが、米国人は合理的。中国製エンジン搭載型にさっさと決める。
さて屋内市場にいくと、ここは本当に中国かと目を疑うような高級車の列である。もともと北京市内で見かける車にはベンツ、BMW、アウディなどが多いのだが、ポルシェ、ランボルギーニ、ロールスロイスの群れと並ぶと、ベンツが「普通の車」に見えてくる。
500万、600万元という値段を見た後には感覚も麻痺して、ベンツの中古車130万元、という値段をみて「あ、安い」と思ってしまうのが怖い。走行距離がたった1,600キロで中古となったランボルギーニも展示されている。
北京の車販売数は月10万台に達する勢い
今回見た中古車の中での最高値はロールスロイス(羅楽斯羅伊斯)。2009年型で668万元(約8400万円)。ロールスロイスの新車には780万元(約1億円)の値段がついていた
急速な経済発展を遂げる中国。仮に人口のたった1%しか富裕層でないとしても、13億人の1%だから絶対数が多い。実際、日本では道路を走っているのを一度も見かけたことがないランボルギーニを、北京市内では1年間に数回目にする。たいてい渋滞にひっかかっていて、その性能をまったく発揮できない北京でなぜランボルギーニ?と聞きたくなるが、「使い切れないお金をもてあましている層」が買うのだそうだ。
とはいえ中国でも、もはや車は富裕層だけのものではない。2009年末の統計によると北京市内の家庭用自家用車は218.2万台で、100世帯あたり平均36台。2台目を購入する家庭も増えているという。北京の従業員平均年収は4.84万元(約61万円)で、中古車なら2、3万元ぐらいから手に入るから、普通の会社員であっても自家用車に手が届くようになってきたのだ。結婚の三大条件は「房子、車子、票子」(マンション[それも親とは別居]、自家用車、現金)とも聞く。日本で1960年代の女性が理想の結婚条件とした「家付きカー付き婆抜き」と同じである。
2010年11月の北京での車販売数は9万6,000台に到達し、1カ月間の販売数で過去最高となった、というニュースが流れた。12月は10万台を超えると予想されている。北京はいままさにマイカーブームといえる。
2008年のオリンピック以降、さらにひどくなっている北京の渋滞は、急増する自家用車で今後さらに拍車がかかるだろう。渋滞にひっかかったランボルギーニやポルシェを目にする機会もますます増えそうだ。
小林真理子