「仕分け」されなくてよかった 文化事業で生まれた奇跡のアルバム
浜松市楽器博物館コレクションシリーズ 23
『クラヴィコードの世界 ~秘められた音楽領域を探る~』
演奏:宮本とも子
LMCD-1902
3045円
4月7日発売
コジマ録音
00年から昨09年までの10年間は、ピアノ誕生300年の記念期間となっていた。様々なコンサートなどが開催されていたのだが、何をもってピアノ誕生と言うかと言えば、1709年(と言われているだけで、確定的な証拠はない)にイタリア人の楽器製作者バルトメオ・クリストフォリが打弦機構を持つ新しい楽器を発明したことをピアノの起源としている。打弦機構を持つことで、それ以前のクラヴィコードとチェンバロの長所(音の強弱と音量)を持つ画期的な発明だったと言われる。
1788年製リンドホルムによって制作
ピアノ以前に、チェンバロ(鍵盤擦弦楽器)などと並んで使われていたのが、真鍮の楔が弦を下から打つという構造を持ったクラヴィコード(鍵盤打弦楽器)だ。14世紀頃発明され、チェンバロの登場する17世紀のバロック期やピアノの登場する18世紀まで、現在ではピアノで弾かれる楽曲の作曲・演奏に供されてきた。このクラヴィコード演奏の日本で初となるアルバムがこれだ。
使用されているクラヴィコードは、浜松市楽器博物館の所蔵する、1788年にストックホルムでリンドホルムによって制作されたもの。実はこのアルバム自体の企画・制作は浜松市楽器博物館が行っており、この作品以前にも所蔵楽器を使ったシリーズ22作品がある。これがもし国の機関だったら事業仕分けとやらで、蓮舫ちゃんにたちどころに中止させられるかもしれない、貴重かつ傍から見れば無駄とも思える「文化事業」なのだ。
指先のタッチひとつで音色が変わる
演奏は、現在フェリス女学院大学の音楽学部演奏学科・宮本とも子教授。1974年以来、現代製作家になる手造りオルガンや、ヨーロッパの数百年を経た古楽器で演奏活動を行なってきた古楽器演奏のスペシャリスト。米国ミシガン州在住の楽器製作家・K.ヒルとの30年におよぶ交流を通して日本にクラヴィコードを広く紹介されてもきた。その宮本教授が09年の秋に収録した音源。
正直初めて聴く音色なのだが、惹きこまれる。華奢な印象も受けるが、指先のタッチひとつで変化するような繊細な音色が逆に魅力的だ。なにか、音楽の歴史の1コマを聴いているという身の引き締まる印象もある。
加藤 晋
【クラヴィコードの世界 ~秘められた音楽領域を探る~ 収録曲】
*フランツ・ヨーゼフ・ハイドン
ソナタ ト長調
1. アレグロ
2. メヌエット/トリオ
3. アダージョ
4. フィナーレ:アレグロ・モルト
ソナタ ハ長調
5. アンダンテ・コン・エスプレショーネ
6. ロンド:プレスト
*カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ
7. クラヴィコードに別れを告げるロンド
ソナタ ハ長調
8. アレグロ
9. アンダンテ・ウン・ポコ
10.アレグロ・ディ・モルト