著名作家絶賛!『桐島、部活辞めるってよ』 朝井リョウに聞く「受賞作」への思い
『桐島、部活辞めるってよ』
「時代の壁・世代の溝を、軽々と乗り越えて見せる普遍的な傑作」(宮部みゆきさん)
「人間関係のくさぐさを新しい構造により摘出していく。そこがおもしろい」(阿刀田高さん)
第22回「小説すばる新人賞」選考委員の宮部さん、阿刀田さんをしてこう言わしめたのが、現役大学生である朝井リョウさんの受賞作『桐島、部活辞めるってよ』(集英社刊)。ただの青春小説とあなどるなかれ。見事な構成力と魅力的な心象表現で、著名作家の共感を得ているのだ。そうした評価への素直な気持ちや、デビュー作に込めた思いを朝井さんに聞いた。
「ちょっとした変化が波のように遠くまで影響していく」
小説は、地方の県立高校に通う5人の同級生を一人称にした短編形式で描かれている。バレーボール部のキャプテン・桐島が突然部活を辞めたことがきっかけで、5人とその周りの人々へ静かに、そして確実に波紋が広がっていく。21世紀の高校生が織り成す「現在」を生き生きと、みずみずしく描きながら、同時に高校生活を経験した人なら誰もがうなずいてしまうような普遍性も含まれている。
「例えば『A君とBさんが付き合った』という情報だけで、周囲の人間関係が少しずつ変わっていく。そんな、ちょっとした変化が波のように遠くまで影響していくのがとても面白い現象だと思って、そのまま書いてみようと思いました」(朝井さん)
小説と同じように、地方の高校で思春期を過ごしたという朝井さん。学校が「世界そのもの」だったという。そんな中で自然と生まれてしまうのが、生徒同士の「階層」だ。例えば小説では、スポーツ万能で同級生女子からモテモテの「菊池宏樹」と、目立たず人気もない映画部の「前田涼也」はかなり対照的。
受賞後に「ものすごく落ち込んだ」理由とは・・・
「学校生活の中で皆がぶちあたる命題は『その中でどう生きていくか』。そんな中で生まれる『階層』を避けては書けないと思いました」(朝井さん)
ただ、ふとしたきっかけでその階層が「逆転」するような現象が起こる。「ここでこう繋がるのか!」といった、まるでミステリーのような展開も巧みだ。
花村萬月さん、村山由佳さんなどの人気作家を輩出した小説すばる新人賞は、気鋭の才能を見抜くことに定評がある。最終選考まで残り、「雲の上の存在」だと表現する選考委員の手に作品が渡ったというだけで「衝撃的で、それだけで十分」だったと朝井さん。実は受賞を聞いて作品が「お金を払って読んで戴くものになった」ことに責任を感じ、「ものすごく落ち込んだ」のだという。
当時を振り返り、「言葉にできない驚きと嬉しさ、それにそれと同じくらいの不安を感じています」という朝井さんは、こうメッセージを寄せている。
「読んで、懐かしい気持ちどころか、恥ずかしい気持ちになるかもしれませんが、心をこめて書きました。卒業アルバムを開くような気持ちで、ぜひ、読んでみてください」
ちなみに朝井さん、現在は長編のスポーツ小説を執筆中だという。<モノウォッチ>