バカ売れ『離婚男の料理』 腕磨いて何をゲットする?
『離婚男の料理』という、ベタなタイトルの料理本がフランスで受けており、クリスマス・プレゼントとして、この本をもらったバツイチ男性もいるのだとか。離婚率が45%(2008年)のフランスで、確かに需要はありそうだが、一体、普通の料理本とはどこが違うのだろうか?
子どもたちが喜ぶレシピを紹介
バツイチパパの心をそそる表紙
愛が冷めたら離婚は当然、そして数多の料理本が出版されているグルメの国フランスで、それでも離婚した男性をターゲットにした料理本というのは思い切った発想だろう。表紙の男性モデルが本で顔を隠していたり、タイトルの下に「離婚するつもりのない既婚男性にもお勧め」なんて、あえて書かれているところに多少の後ろめたさが感じられなくもない。
さて、全五章にわたり80近い料理レシピが掲載されているこの本、第一章には基本事項として、揃えるべき調理器具や調味料、冷蔵庫に常備するべきもののリスト、食料品の買い物のコツなどが説明されている。そして、第二章は「(独り暮らしの)サバイバル方法」と題して、スパゲッティのゆで方から、栄養バランスの偏りを防ぐためのサラダのレシピなどが載っている。と、ここまでは、独り暮らしを始めたばかりの独身者向け料理本と何ら変わりはない。
ところが、続く第三章にいよいよ登場するのが「子どもの食事」。フランスでは小さな子どものいる夫婦が離婚した場合、親権は両方の親に与えられる。基本的に母親のもとで暮らし、隔週末と学校休暇の半分は父親のもとで暮らす、というパターンが主流であるが、中には1週間ごとに母親と父親のもとを行き来する子どももいる。となると、離婚男も子どもの食事を作り、ちゃんと成長に必要な栄養素をとっているかどうかに気を遣わなければならない。この章では鶏の丸焼き、ポテトサラダ、ピザ(トッピングを子どもにさせよう!とある)から、バースデーケーキまで、子どもたちが喜ぶレシピが紹介されているのだ。
離婚後も幸せに過ごすための料理
現在、フランスで上映中、諏訪敦彦とイポリット・ジラルドが共同監督した『ユキとニナ』も子どものいる夫婦の離婚を取り上げた作品 (C)Ad Vitam
そして第四章のタイトルは"家に友人たちを招く"。ホーム・パーティのホスト役の鉄則は客を放っておかないこと。夫婦で人を招く場合には、妻が前菜の準備をしている間に、夫が客にアペリティフをすすめ、夫がメインの肉を焼いている時に妻が客の話し相手をしたりと、うまく役割分担をしながらパーティをすすめる。ところが、離婚男はこの二役を一人でこなさなければならないので、パーティのメニューは前菜もデザートも前もって用意しておけるものに限られる。メインも客が来る前に下ごしらえを全て終え、後はオーブンのスイッチを入れればいいだけ、というようなシンプルで、なおかつ気のきいた料理が紹介されている。フランスはカップル社会であるが、独り身になったからといって、友人たちとの付き合いを控える必要はない。積極的に人を招待すれば、そこから新しい出会いも生まれるというものだ。
それが最終章の「二人きりの食事」につながる。フランス人は離婚したからと言って、二度と誰かと一緒に住むのはまっぴらだ、なんて思ったりしない。ここでは、新しい彼女を家に招待するための、凝った料理、しゃれたデザートのレシピが紹介されている。
この本、離婚したばかりの男性に「早く次の幸せをつかんでね」と一言添えて、プレゼントすれば喜ばれるに違いない。自分の夫へ三行半代わりに渡す妻もいたりして。
江草由香