日本とはちょっと違う フランスの新聞崩壊事情

   フランスでも日本同様、新聞の販売部数減や新聞社の経営不振が問題になっている。ただ、その原因は、活字離れによるものではなさそうだ。

Read more...

無料新聞に押され気味、一般紙の対応策は?


駅構内に設置された無料新聞のラック

   2008年の日刊紙に関する統計報告を見ると、「毎日、少なくとも新聞一紙に必ず目を通す」と答えた人は2430万人、これはフランスの15歳以上の人口の48.6%にあたり、前年度よりも2.3%増えているというのだ。ただ、最も読者数の多い日刊紙は、地下鉄駅構内などで配布される無料新聞の「20 Minutes」(2007年度比4%増)、2位がスポーツ新聞の「L'Equipe」(1.6%増)、3位はこれまた無料新聞の「Metro」(2.7%増)。つまり、無料新聞に押され気味の、有料一般新聞の不振ととらえた方がよさそうだ。

   さて、この売り上げ不振の打開策だが、フランスには新聞の宅配制度が存在せず、自宅に届けてもらいたい人は、郵便による定期購読を利用する。各新聞社ともこの定期購読者を増やすべく、契約時にデジカメやエスプレッソ・マシンをプレゼントしたり、購読料を最大50%オフにするなどのサービス合戦を繰り広げている。

   一方、駅売りに関しては、日刊新聞社14社とパリ交通公社が提携し、新聞の呼び売り部隊を組織。昨年9月から利用者数の多いパリ市内の11の駅で、売り子(なぜか年配の男性ばかり)たちが、通勤客をターゲットに有料紙を即売している。駅構内に設置されたラックから無言で無料紙を取っていく人々を横目に、声を張り上げ新聞を売るこの呼び売り部隊は、それなりの成果をあげている、と聞く。

   さらに、政府レベルでは、今年1月にサルコジ大統領が、18歳の誕生日を迎えた全てのフランス人が1年間、無料で好きな新聞を購読できる制度を作る、と発表。若者の新聞離れを防ぎ、新聞社を救済する一石二鳥の効果がある、と力説した。

究極の打開策? クオリティ・ペーパーが無料紙を発行


有料紙の売り上げUPに貢献する「呼売り人」

   ただ、この問題は無料紙VS有料紙という単純な図式にはおさまらない。というのも2007年にフランスのエリート向けクオリティ・ペーパー「Le monde」が、有名実業家ヴァンサン・ボロレ率いるボロレ・グループと手を組んで無料紙「Direct matin plus」を創刊したのだ。(出資率はLe monde30%、ボロレ70%)。経営不振の打開策とはいえ、フランスを代表するクオリティ・ペーパーが、サルコジ大統領の親友で、大統領のヴァカンス費用を負担した、と取りざたされたボロレ氏と提携したことがイメージダウンにつながったのか、「Le monde」本誌の2008年の発行部数は2007年比で8.8%減。これじゃ、本末顛倒じゃないか?と、思ったが、この2月にLe monde社の記者が「Direct matin plus」のために書いた記事を同編集部が掲載拒否し、印刷直前に広告に差し替える事件が勃発。理由は業務提携先のパリ交通公社(駅構内に同紙の専用ラックを設置してもらっている)を非難する内容だったということらしい。その記事は、異議申し立ての言も付け加えて、「Le monde」に掲載された。クオリティ・ペーパーの気概は、ちゃんと残っているらしい。新聞ってイメージ商売かも、と感じた出来事であった。

江草由香

注目情報

PR
追悼